地方移住を妨げる大きな要因の1つが「仕事」です。近年は地方に移住しても都内の仕事を受託して…というフリーランスの方も増えていますが、多くの人は移住した土地での就職を考えます。
移住前に描く理想と実際の地方暮らしではギャップがあります。大切なのは移住前にギャップをどれだけ埋めるか。想定内のギャップであればダメージは少ないですが、想定外のダメージは移住してすぐから大きなダメージとなります。
「地方移住したら仕事する時間は短くしよう!」
「年収が減ってもいいからやりたいことをしよう!」
「仕事が無いとは言っても、なにかやりたい仕事は地方にもあるだろう!」
上記のような移住検討時の願いは一体、移住後にかなうのでしょうか。そして同じように移住に希望を抱く人々は現実をどのように受け止めているのでしょうか。本記事では移住に関するさまざまな統計から、地方移住×仕事の実態を紐解いていきます。地方移住後の仕事について検討する材料の1つにしてみてください。
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「地方移住したら労働時間を短くしたい」は実現可能か
一般社団法人移住交流推進機構(JOIN)が2018年に発表した「若者の移住」調査レポートから、東京圏在住20代~30代既婚男女で地方移住に興味がある500人の仕事に関する考えをみていきます。
最初の質問は『移住に伴い勤務先が変わるとして、重視する仕事の条件を教えてください』。この結果から移住と仕事の関連でみえてくるのは「勤務時間にとらわれない仕事がしたい」人が多いことです。「労働時間を大幅に短縮したい」も9.8%いるため、約3割の人が移住するなら「自分で働く時間を選択できる仕事につきたい」と考えていることがわかります。
実はここに大きな落とし穴があります。こちらは厚生労働省の統計を基にした都道府県ごとの男女別実労働時間のグラフです。なんと最も実労働時間が少ないのが東京都、次が大阪府であることがこの統計から分かります。最も長い青森県が189時間であるのに対して、最も短い東京都は174時間と月間で15時間が差があることが判明。つまり都市圏のほうが実労働時間は短く、地方のほうが長く働いているのです。
差の理由は労働需給、賃金、週休2日制の導入状況、就業形態など、地域経済の状況、家族構成、ライフコースなどさまざまな要因があるため断定はできません。しかし地方公務員の労働時間に関するデータをみるとその理由がうっすらと浮かび上がります。
公務員の労働時間・出退勤管理は、総務省の「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査」(2017年)によれば、客観的な記録による労働時間の把握をしている自治体(都道府県、政令指定都市、県庁所在市)は25%、任命権者からの現場確認が30%、職員からの申告が44%とのこと。これは民間ではありえない低さです。
地方においてはいまだに「公務員は地域のために時間外でもボランタリーな仕事をする」という慣習が残っている部分があります。近年改善されつつあるものの、土日に自治体職員が地元のお祭りやイベントに駆り出されるといった話はよく聞きます。このような働き方に関するメンタリティーが地方公務員のみならず多くの地方自治体で他の業種にもみられます。一方で都市以上に早く切り上げられる職種もあるため、その職場の慣習や雰囲気に左右されやすいのが地方の働き方だといえるかもしれません。
約5割の移住希望者が「仕事」を移住を妨げる要因と感じている
JOINの調査における2つ目の質問項目は『地方への移住を妨げている大きな要因は何ですか』。回答者の4人に1人が「移住先では求める給料水準にない」ことを挙げており、約半数の回答者が仕事に関する何らかの要因が移住の妨げになっていると感じているようです。仕事は人間関係やコストを差しおいて最も高い移住妨げ要因となっているのです。
移住促進雑誌や各種メディアでは「移住で年収が少なくなっても心の豊かさが得られれば良い」という、いわゆる「ダウンシフター」「ライフスタイル移住者」が象徴的に取り上げられます。しかしJOINの調査結果から地方移住に伴って世帯年収が10%より減ってもいいと答えている人は、たったのおよそ12%であることがわかっています。つまり多くの人は「できる限り世帯年収は減らしたくない」と考えているのです。
「年収を落とさずに地方移住する」ことは結構難しいテーマです。特に地方移住を考える層は社会における中上流階層に多いため、そのままを維持しようとすると地方では公務員かもしくは相当の専門性が必要になります。コロナによって注目を集めるテレワーク・リモートワークや、地方からの新幹線通勤などは地方移住の仕事の障壁を乗り越える1つの方法になると期待できるでしょう。
地方に仕事はあるのか
地方移住に関する相談を受けたり各種イベントに登壇させていただいたりするなかで、最も多い質問が「地方に仕事はありますか」という質問です。この質問に対する答えは筆者の中で決まっています。それは「選ばなければ人手が足りていない仕事はたくさんあります。しかしやりたい仕事に条件を増やせば増やすほど都会よりも就ける仕事は少なくなります」という回答です。
コロナによって経済が停滞する以前は、地方の有効求人倍率はどの都道府県も1.0を超えていました。しかし例えば地方で事務職の仕事に就こうと思うと途端に選択肢は少なくなります。つまり職種別に1.0を超えている職種と超えていない職種があり、事務職のようなホワイトカラーワークは求人倍率が低い職種なのです。
では人手が足りていない職種は何か。例えば高齢化が進む農業、高齢者が増えることでニーズが増す社会福祉、肉体労働で長続きしにくい建築・土木関係などが人手が足りていない職種です。しかし地方移住してきてこれらの仕事に就きたい人は、一部の農業を除きほとんどいないのが実態です。なぜならそれは都市で働いていたときよりもきつく給料も安い仕事だからです。
近年は空き屋の増加と対策の進展・移住促進施策の充実で住む場所は意外とどうにかなるケースが増えています。しかし仕事は行政にはどうにもできません。住む場所は決まったけど仕事が決まらないというケースはよく聞きます。あなたがやりたい仕事がその地域にあるのか、必要とされている職場はあるのか、事前に細かく調べておくことが大切です。
まとめ-地方移住の最後の壁となる仕事を超えられた先には…-
以上3つの側面から地方移住と仕事のリアルをみてきました。途中、厳しいデータも出てきましたが実は地方の仕事はしっかりと調べると意外とやりたいこととマッチするものが見つかったりします。また地方の企業としても都市からの優秀な人材は欲しいというのが本音です。
筆者の知人で、やりたい仕事ができる会社が見つかったけれど募集をしていなかった。しかし1度ダメもとでメールをしてみたら採用につながったというケースがありました。めぼしい企業が見つかったらダメもとで採用してくれないか聞いてみるのは1つの手です。
また10年的比べて最近は大手の求人サイトにも地方の求人が多く載るようになっています。人気の職種はすぐに採用枠がなくなってしまうため、移住希望地域が決まったら定期的に大手求人サイトをチェックするようにしましょう。皆さんの地方移住における仕事選びがうまくいくことを願っています!
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参考資料
・独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT), 2007, 「ワーク・ライフ・バランスの地域間の違いについて」.
・厚生労働省, 2005, 「賃金構造基本統計調査」.
・一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN), 2018, 「若者の移住調査」
・総務省, 2017, 「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査」