日本で生活していると、海外のコロナ禍の社会状況や生活に関する情報に触れる機会があまりありません。KAYAKURAではフランス在住の研究者による「観光大国フランスは、どうコロナウイルスから観光を取り戻すのか-現地研究者からの報告-」を6月に掲載しました。
今回はイギリス ロンドンで2020年3月末から生活する稲垣佐苗さんに、コロナ禍のイギリス生活について語っていただきました。3月頃と8月現在の違いは?学校は?仕事は?第二波は?など、オンラインでインタビューした模様をお届けします。これから渡英する方、海外のコロナ事情に興味がある方はぜひ参考にしてみてください。
神奈川県横浜市出身。大手銀行勤務を経て、現在は㈱ファストコム/㈱ニッポン手仕事図鑑バックオフィス業務(財務部門中心に担当)、自治体向け企画営業などを行う。 7歳 5歳男児の母. 2020年3月末から英国ロンドンのウェストアクトン在住.
コロナ禍のイギリス:2020年3月末と8月現在の比較
稲垣:今年の3月末、イギリスに来たときには、街を歩いている人はほとんどいませんでした。人を見かけるのはスーパーのみ。到着時のヒースロー空港もガラガラでした。当時は、毎日朝になると、近所の家の煙突から煙が出ているのを見て「ほとんど見かけなくても、きちんと暮らしがあるんだ、この街に人は住んでいるんだ」と思っていました。そのくらいひっそりとしていました。
3月~ロックダウン中は、家の窓にNHS(国民保健サービス)に感謝を込めて子どもたちが描いた絵や写真が飾られているのが印象的でした。外に向かって、いま頑張っている人たちに向かって敬意をこめて絵を飾っているんです。その絵を見ることで初めて「この街にも、幼い子どもたちが住んでいる」と感じることができるくらい、子どもにも会いませんでした。
8月13日現在は、普通に人々が外を歩いています。繁華街に行くと半分くらいマスクしていないですね。お店に入るときの順番待ちやカフェの席が異常に離れているなどはありますが、それ以外は普通です。室内に入るときは、どこも日本同様に消毒用のジェルがありますが、体温計で熱を測るのは幼稚園と病院ぐらいでした。
コロナ禍のイギリス:学校
稲垣:4月に予定されていた入学式は早々に延期されました。小学校では5月の上旬~中旬にGoogle上で各学年ごとにグループをつくり、連絡を取り合うようになりました。5月中旬からは毎週、オンライン上での朝会と宿題提出が始まったので自宅待機でも宿題がありました。
6月上旬からオフラインでの学校が段階的に始まりました。密にならないように午前組と午後組にわかれて、3,4時間ずつ授業を受けるカタチです。ソーシャルディスタンスを保つために、それぞれの組がさらに2グループにわかれ、席を空けて座るなど配慮して授業を受けていました。それが7月末まで続きました。夏休み明け、今後のことはまだ決まっていません。
小学2年生から転校してきた長男は、クラスメイト全員で会う機会が少なく、学校生活でもソーシャルディスタンスをある程度意識しなければならないので、友達と話す機会をまだあまり多く持てず、少し苦戦しているようですね…。 一方、幼稚園は外遊びなどで友達同士、触れ合う機会があるようなので、次男は日本での暮らしとあまり違わないようです。
コロナ禍のイギリス:ニュースについて
稲垣:日本のように第二波が騒がれているという感じはあまりありません。「本当に落ち着いたのか?」とは思いますが、経済をこれ以上止められないから再開したという風にも見えます。最近は、さまざまなルールの緩和の速度を緩めるかどうかという話はありますが、飲食店もオープンして、みんな通常通り出歩くようになっています。
コロナ禍のイギリス:日系企業の働き方
稲垣:働き方は完全に変わり、日系企業で働く主人は基本的に自宅で仕事をしています。今後、緩和したとしても、これまでと同じ頻度のオフィス通いではなくなる可能性が高いとのことで、企業側はこれを機にオフィス設置コストや通勤コストなどを減らし、働き方を変えようとしてもいるようです。
企業によってはオフィスで働く形態に戻るところもあるようですが、今回の在宅勤務経験でも業務は遂行できるという実感で、これを機に働き方を変えるところも多そうです。
コロナ禍のイギリス:観光
稲垣:イギリスに来た当初から、支障がない程度に外に出て近所の公園をふらっと訪れたりはしていました。初めて電車に乗ったのは規制が緩和され始めた6月頃。基本的にエッセンシャルワーカー以外は公共交通機関は利用してはいけない、といる国のルールだったので、致し方なく利用せざるを得ない際は、監視をしている駅員に「エッセンシャルワーカーですか?本当に必要な事由で利用するんですか?」と聞かれました。
公共交通機関が使えない代わりに、自転車に乗っている人がとても多い印象です。私も4月に自転車を手に入れ、移動の幅が広がりました。6月まではスーパー以外のお店はほとんど空いていませんでしたが、7月上旬にショッピングモールや商業施設が開きはじめました。
6月上旬、ロンドン郊外にあるキュー王立植物園に行ったのがコロナ以降、初めての観光でした。完全予約制で、人は結構いましたがみんなソーシャルディスタンスを守っていました。敷地内も周辺も、カフェやレストラン、公共トイレも営業していなかったので、観光と言いつつ少々不便な感じでした。
本格的に観光したのは8月に入ってからです。ロンドンから電車で2時間程度のバースとブリストルに1泊2日で行きました。8月から曜日限定の食事補助も始まったので、人足も多くなってきた印象です。
コロナ禍のイギリス:行政からの支援
稲垣:すべての支援を把握できていませんが、特徴的なのは8月に始まった平日限られた曜日に、店内で食事する人は半額補助される「Eat Out to Helo Out」です。政府のHPをみると、自分が住んでいるエリアで利用できるお店のリストが閲覧できるので、つかってみたいなと思っています。
ロックダウンにあたり、「コロナウイルス自営業収入支援スキーム」と呼ばれる、新型ウイルスの流行により収入を失った個人事業主を対象にした支援もあったようです。
コロナ禍のイギリス:今後について
稲垣:イギリスでも新型ウイルスに注意しての生活が続いていくと思います。観光面では人数制限して必ず予約して訪れる、電車やスーパーでは必ずマスクを着用することが義務付けられるなど、社会全体としてある程度のルールの中で生活するようになると思います。ただ街の人が慣れるのも早く、コロナ禍の新生活ルールが当たり前になってきている印象です。粛々とルールに従って動いている様子に見えます。
一方、影響が長引くものもあります。特に大型イベントや展示会などはなかなか再開が厳しい状況です。普段の生活は支障なく始まっていますが、毎年行われていたイベントやパレードなどの一大行事は、再開までに相当時間がかかるようです。
学校に関しては、大学や大学院は9月から始まると聞いています。ただ留学生は始まる3週間前を切ってからでないと入国できないなどの制約などもあるようで、ギリギリまで感染可能性のある方を入れない措置なのかと思っていますが、早めに訪れて語学を勉強したり、生活に慣れる時間を取れないのは留学生にとって厳しいなと思います。
よい変化としては仕事も、学びも、その他いろいろなイベントごとも、対面でやっていたことがオンラインになったので、語学というツールさえ使えれば、国境を超えて仕事をしたり、イベント、講座などに参加がしやすい環境になってきたことです。
ただ、私自身はイギリス国内に知り合いを増やすところからなので、オンラインの機会を探す、情報集めがが一苦労だと感じています。日本の工芸品や文化をぜひ、こちらでも多くの方に知っていただきたいので、オンラインイベントへの参加や自身もいずれイベント開催などして、うまく日本に関心を持っていただいているイギリスの方と日本をつないでいきたいです。そのためには、まずは自分を知ってもらわないといけないので、少しずつ再開しているオフラインのイベントに顔を出したり、ボランティアに参加したりして外に出て動く機会を今後つくっていきたいと考えています。
ニッポン手仕事図鑑は、「ニッポンの手仕事を、残していく」をコンセプトに2015年1月にリリースされた、日本が誇る職人の手仕事、地方の文化や伝統工芸を、映像で紹介している動画メディアです。運営する株式会社ニッポン手仕事図鑑(株式会社ファストコム)は、動画メディアのほかにも地域や文化の魅力を発信する事業を多数行っています。
Webサイト: https://nippon-teshigoto.jp/
Twitter: https://twitter.com/NipponTeshigoto
Facebook: https://www.facebook.com/teshigotozukan/
→イギリスの観光情報や生活情報についてさらに知りたい方は、KAYAKURAが運営するWebサイトUK-TRIPをご覧ください。