政府は2020年7月17日に、地方創生に関する基本方針を閣議決定しました。新型コロナウイルスを経て決定された2020年今後の方針は、移住先での在宅勤務やワーケーションを推進する内容となっています。
深刻な東京一極集中と若者の地方離れを食い止めるため、東京に本社を置く企業の地方でのオフィス開設や従業員の地方移住を促すほか、地方大学の魅力強化にも取り組む方針。内閣府による地方創生基本方針「まち・ひと・しごと創生基本方針2020」の押さえておくべきポイントと、方針から読み取れることは何なのか、詳しく見ていきます。
地方創生基本方針2020の概要
新型コロナウイルス感染症により、地域の経済・生活に影響が生じ、また、デジタル化の遅れなども顕在化しています。このため、雇用の維持と事業の継続、経済活動の回復を図るとともに、感染症克服と経済活性化の両立の視点を取り入れ、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進しつつ、東京圏への一極集中、人口減少・少子高齢化という大きな課題に対し、取組を強化することが今回の方針では全体を通して強調されています。
具体的には「雇用の維持と事業の継続」「経済活動の回復」「強靭な経済構造の構築」「5G等の情報通信基盤の早期整備」「デジタル人材の育成・確保」「地方創生推進交付金 Society5.0タイプ」などが方針として掲げられています。
また地方創生臨時交付金(3兆円)を活用し、感染拡大の防止や雇用維持・事業継続を後押しするとともに、「新たな日常」に向け、強靱かつ自律的な地域経済の構築を支援することも掲げています。
新型コロナウイルス感染症対策と地方創生2020
今回の地方創生2020年方針は新型コロナウイルス感染症後の地方創生についてたくさん触れられています。政府は「コロナに強い社会環境整備」、「新たな暮らしのスタイルの確立」、「新たな付加価値を生み出す消費・投資の促進」の3つの角度から、必要な取組を重点的かつ複合的に展開し、「新しい生活様式」とそれを支える強靱かつ自律的な地域経済を構築すると表明しています。
コロナに強い社会環境整備としては三密対策やキャッシュレス化、行政IT化、防災IT化、スーパーシティなどをあげています。これについては政府が推し進めたい政策と強引に結び付けた感じが否めませんが、社会環境のアップデートは必要な取り組みです。
新たな暮らしのスタイルの確立としては、教育、医療、地域交通体系、文化芸術、リビングシフト、ハートフルなどを挙げています。これは新しい生活様式の実現とも密接に絡んでくるとのことです。
消費・投資の促進としては、強い農林水産、DMO、物流の進化、新たな旅行、商品券旅行券、事業構造改革があげられています。Go To キャンペーンなどがここでは念頭に置かれていることがわかります。
全体として政府の方針が強く押し出しているのが地域経済のデジタル・トランスフォーメーション(DX)と、IT化です。この分野については地方創生臨時交付金などを活用しながら投資をし人材を育成することが求められています。
地方大学の産学連携強化と体制充実
地方への移住定住を推進するために地方大学の産学連携強化と体制充実を目指すことが今回の方針では強く押し出されています。魅力的な地方大学の実現、地域の雇用の創出・拡充により、若者の地方への定着を推進するため、地域の特色・ニーズ等を踏まえ、STEAM人材等の育成等に必要な地方国立大学の定員増も含めた大胆な改革等に取り組むとのこと。
政府は改革パッケージを早急に取りまとめ大学改革を実施することを表明しており、パッケージの具体例としては以下のようなものがあります。
- 地域の特色やニーズ等を踏まえたSTEAM人材・教育(科学(Science)技術(Technology)工学(Engineering)アート(Arts)数学(Mathematics)を理念において人材とその教育)を実現するための地方国立大学の定員増
- 地域の雇用の創出・拡充に向けた、地方公共団体や地元産業界との恒常的な連携体制の構築
- オンライン教育を活用した国内外の大学との連携
目指す方向性は分かりやすい一方でいくつかの問題点もあります。1つ目はSTEAM人材を育成する大学への支援を重点的に行うことを表明していますが、これは近年の「役立つ学問」への投資強化=文系軽視の流れを推し進めるものです。
しかし政府が掲げるSociety5.0の時代においては、文系的な知は必要不可欠です。技術やテクノロジーを開発する人材だけでは世の中は良くなりません。また文系学生が多い大学と理系大学の状況格差も広がる可能性があるため、ある1つのモノサシで「使える人材・使える学問」を図り支援に差をつける政府の方針には些か疑問符をつけざるを得ません。
また地方の大学がいくら魅力的になっても、周辺地域に大学生が求めるものが無ければその地域での生活満足度は低くなってしまいます。
大学の魅力を高めれば学生が集まるとは簡単に言えないため(学生が増えても地域満足度が低ければ持続的に人は集まらない)、地域の魅力をいかに高めるかもポイントになってきます。また1度首都圏に出てきて卒業時に地方に戻りたい学生が戻りやすい環境を整える必要もあるでしょう。
地方への移住定着推進-リモートワーク推進など-
地方への移住定住推進に関しては、経済団体、東京の大企業等との連携の下、
- 地方
- 東京に立地する企業
- 働き手
にとってメリットのあるリモートワークやサテライトオフィスの在り方を検討するとともに、政府関係機関におけるリモートワークの方向性についての調査検討を進め、しごとの地方移転と社員等の地方移住を推進するとしています。(地方という括りの曖昧さは要注意。住民にとってなのか行政にとってなのか一部事業者にとってなのか。)
地方への移住定住を推進するうえでカギとなるのが東京に立地する企業の姿勢です。地方移住する際に最もネックとなる仕事ですが、リモートワークやテレワークが可能となることで移住へのハードルが低くなる人が多くいます。
しかしそれは個人の判断で急にリモートワークを始めることはできないため、企業の判断に委ねることとなります。企業の地方でのサテライトオフィス開設等を支援したり、リモートワークを行いやすい企業環境を整えたりすることで移住したい人が移住できる環境を整備できるでしょう。
休暇と仕事を組み合わせた「ワーケーション」や都市と地方で業務を分散する希望分散型のリモートワークなど、選択肢は増えつつあります。ポイントはコロナによって推進した働き方の多様化をコロナ前に戻さないこと。
一部調査ではコロナ前の働き方に戻っているところもあるため、「コロナを乗り切るための働き方の多様化」ではなく「幸せで人間らしい生活をする為・企業の持続可能な発展のための働き方の多様化」を推し進める必要があります。
まとめ-方針を掲げるのは簡単だが実行するのは難しい-
今回の地方創生2020年方針では、デジタルトランスフォーメーションや地方移住のさらなる推進、地方大学の魅力向上、そして新型コロナウイルスなど感染症に強い地域経済の構築が掲げられています。方針は掲げるまでがスタートです。今後、この方針に沿っていかに改革を行うことができるか注視していく必要があるでしょう。
特に昨今の政策はなんでも新型コロナウイルス感染症対策と銘打つと通りやすい、やらなければいけないような空気があります。しかしそれは果たして本当に今やる必要があるか、新型コロナウイルス感染症対策と言っているが本当に感染症対策なのか、何か裏に意図があるのではないか、とリスクが高く予測不可能な時代の地方創生だからこそ1つ1つ立ち止まって考えていく必要があるでしょう。