白馬岩岳スノーフィールド国内初VIPプログラムにみる観光における日本的平等からの脱却と課題

日本の観光エンターテイメントの多くは「平等主義」的で、みんなが画一された同じサービスを受けることが正しいとされています。しかし、世界的にみるとこれは稀です。1000円の入場料を払った人には1000円分のサービスを、5000円払った人には5000円のサービスを提供するのが当たり前の「公平主義」的な観光地やエンターテイメント、ホテルが海外では一般的。

本記事では日本のウィンターアクティビティ観光産業における平等主義からの脱却例として、2019年12月に白馬岩岳スノーフィールドが開始した新サービス「HAKUBA S-CLASS 〜VIP lounge & Priority pass」を例に、公平主義的で多様な選択肢が用意された観光サービスの可能性と課題を考えていきます。

日本のウィンターアクティビティ/スキースノーボード観光産業の現状

公益財団法人日本生産性本部余暇創研が2017年に発行した『レジャー白書』によると、2016年のスキースノーボード人口は合わせて580万人でした。1998年に過去最高の1,800万人(スキー1,400万人、スノーボード400万人)をピークに徐々に減少。現在は最盛期の約1/3程度とウィンタースポーツ産業は厳しい状況が続いています。

観光エンターテイメントにおける「平等」と「公平」

日本の観光エンターテイメントは平等主義で、世界的みると多くは公平主義と初めに書きましたが、ここで1度言葉を整理します。

「平等」とは、個人の資質、能力、努力、成果に関係なく一定の規則通りに遇するシステムとなっていることを指します。一方、「公平」は、 すべての人に対し、機会が均等に与えられており、成果を上げた者が評価され、報われるシステムとなっていることを指します。

これを観光エンターテイメントに当てはめると、平等主義とは「収入や予約した時間、座席やサービスに関係なく一定の金額で規則通りのサービスを提供する」ことになります。一方、公平主義は「多様な選択肢が均等に用意されており、支払った金額や選んだものによって金額相応のサービスが受けられる」ことを指します。

日本の観光エンターテイメントは平等から脱却した差別化が必要

日本の観光エンターテイメントは、金額による平等主義が世界的にみて特徴です。有名アーティストのLIVEでは一番前の席でも最も後ろの席でも同じ金額だったり、決まった金額の中で最大限のサービスを提供する代わりにチャージ式でサービスを追加することが難しかったりと、収入やその場の状況に関わらず金額が同じ設定になっていることが多いのが現状です。

日本と比べてアメリカの観光産業やエンターテイメント産業は公平主義的です。ウィンタースポーツの例をみてみましょう。日本のスキー場のリフト1日券価格は平均で5,000円前後。雪の量や込み具合によって価格が変動することはあまりなく、ディズニーランドのファストパスのようなサービスもあまりありません。

アメリカの場合は、1日券の価格がそもそも高く設定されておりカリフォルニア州とネバダ州の間にあるタホ湖のスキー場は、1日平均150ドル(約16,000円)、ハイシーズンだと180ドル(約20,000円)にもなります。券は事前に買うことで安く買えるほか、1day~7daysチケットまで用意されています。また、特別なパスが用意されていてそれを買うことで追加で様々なサービスが受けられたり優待が受けられたりもします。

白馬岩岳スノーフィールドSクラスにみる平等からの脱却と課題

このように、日本とアメリカでは大きく状況が異なるウィンタースポーツ観光産業ですが、2019年12月から日本では珍しい通常の約4倍支払うことで特別なサービスが受けられる「HAKUBA S-CLASS 〜VIP lounge & Priority pass」を白馬岩岳スノーフィールドが開始しました。

Sクラスの利用料金は、大人一人1日利用で15,000円(税別)です。この料金にはリフト代が含まれていないので、リフト代(5,000円~6,000円程度)+Sクラス利用料で1日およそ20,000円払うとプレミアムなサービスを受けてスキースノーボードが楽しめます。

Sクラスサービスの提供期間は、2019年12月21日(土)~2020年3月29日(日)。Sクラスサービスの中には3か所あるVIPラウンジの利用権が含まれており、それぞれ以下の時間に利用できます。

山頂 / PEAK LOUNGE 8:00~16:00

中腹 / MAIN LOUNGE 8:30~15:30

山麓 / BASE STATION 7:30~17:00(お食事のご用意はございません)

VIPラウンジ利用のほか、Sクラス利用者は以下のようなお客さんのストレスを徹底的に排除するための優先サービスが受けられます。(一部、事前予約制・別途料金要)

  • 専用チェックインカウンター利用
  • ゴンドラやリフトの優先登場
  • プライオリティ・パーキング
  • ピックアップサービス
  • ハイエンド・モデルのレンタルスキー、スノーボードが無制限で交換可能
  • 専用ガイドによるガイドやレッスン
  • 営業終了後にゲレンデを貸し切ってのナイトキャットツアー

白馬観光開発株式会社代表取締役社長の和田寛氏はメディア発表の中で「世界有数のスノーリゾートとしてのポジションを確立すべく行う取り組みの一つとして、世界水準のラグジュアリーサービスをパッケージ化した国内唯一のプログラムを白馬岩岳スノーフィールドで提供開始する。これまでのスキー場では体感できなかった「ファーストクラス」のような優雅な過ごし方を楽しんでいただきたい」と話していました。

差別化されたサービスが今では普通に提供されている飛行機の例を出しての説明は、白馬岩岳スノーフィールドが目指す方向を分かりやすく表しているように感じました。Sクラスの取り組みは主にインバウンドがターゲットの取り組みで日本の観光エンターテイメントに新しい風を吹かせる試みですが、一方で課題もあります。

1つ目はこれまで白馬岩岳でスキースノーボードを楽しんできた日本人客層への理解の促進。2つ目は利用者数の確保。現時点では1日50人程度を見込んでいるとのことでしたが、平均してSクラス利用者を確保していかなければ、ハイシーズンにはSクラスに混雑が生まれリラックスが生まれにくくなってしまいます。逆にラウンジの利用者が少なすぎても閑散とした雰囲気が漂ってしまい満足度が上がりません。冬シーズン終了後の利用者数に注目です。

まとめ-多様な選択肢が用意された観光・エンターテイメントへ-

画一化された平等なサービスですべての人が満足できる時代は終わりを告げようとしています。多様な選択肢の中から均等に選択の機会が与えられた公平主義的な観光・エンターテイメントへの転換が日本の観光エンターテイメント産業を世界レベルに押し上げるのには不可欠です。忘れてはいけないのは、選択肢の多様性が求められるのはニーズの多様化によるものであるということ。市場の変化と顧客ニーズの多様性を正確に把握し事業にいかしていきましょう。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。