ナホトカ号事故に学ぶ燃料流出の影響と懸念される被害・SDGsとのつながり-商船三井の貨物船座礁・燃料流出事故発生-

商船三井の貨物船がインド洋の島国モーリシャスの沖合で座礁、燃料が周辺に大量に漏れ出していることが8月8日までに明らかになりました。商船三井によると座礁したのはシンガポール経由で中国からブラジルへ向かっていた貨物船「WAKASHIO(わかしお)」。8月6日になって、救助作業中に燃料油が入ったタンクから流出が確認されました。

商船三井 パナマ船籍のWAKASHIOが座礁したのは、国際的に重要な湿地の保全を目的としたラムサール条約の指定地域に含まれているポワントデスニーという場所で、ブルーベイ海洋公園に近い場所です。環境活動家やモーリシャスの環境省は周辺環境に大きな影響が出る恐れを危惧しているとのこと。

このニュースが日本に伝わってきてから「船が座礁して燃料が海に流れ出る事故って過去にどの程度起きているの?」「燃料が流れ出ることで周辺環境には具体的にどんな影響が与えられるの?」「日本でも同じような事故って起きているの?」などの疑問がSNSでみられました。

起きてしまった事故を時間を戻して無くすことはできませんが、私たちはこの事故から改めて「燃料流出事故」「環境汚染/周囲への影響」を学ぶび今後に生かす必要がある。なぜならこのような事故はいつ島国日本で起こるか分からない、誰もが同様にリスクを抱えたものだからです。

実際に日本でも過去に大きな燃料流出事故は起きており、周辺自治体に多大な影響を与えた事例があります。本記事では1997年ナホトカ号の事故に焦点を絞り大型船事故による燃料流出が与える影響、近年取り組みが盛んになっているSDGsなどにもつながっている事故から学べることをみていきます。

過去に世界/日本で起きた大型船座礁 燃料漏出事故

若い方では知らない方も多いかもしれないですが、大型貨物船/タンカーの燃料である油が流出する事故は戦後、世界中で頻発していました。

古いデータですが海上技術安全局安全基準課安全評価室が平成12年にまとめた「主要なタンカー油流出事故について」によると、1967年~1999年の間に15のタンカー油流出事故が世界中で起きています。このうち、事故内容が座礁なのか6件と約3件に1件の原因が座礁となっています。

6件の座礁事故事例のうち最も油の流出量が多かったのは、1978年にリベリア籍のVLCCアモコカディス号がフランス太平洋岸ブルターニュ半島で座礁し積荷であった223,000トンの原油が全て流出した事故です。事故によって流出した原油はリゾート地の砂浜を汚染し、漁業や観光業に壊滅的な打撃を与えました。この事故によって125マイル(201km)に及ぶ海岸線が汚染されたことからも、原油流出事故が与える影響の大きさがわかります。

1997年ナホトカ号の事故とその後の活動から学べること

原因は座礁ではありませんが、ここ数十年の間に日本で起きた最も大きなタンカー油流出事故は、1997年のロシア船籍ナホトカ号の事故です。この事故は記憶にある方もおおいのではないでしょうか。

ナホトカ号は1997年1月2日未明に、上海からペトロパブロフスクに向けに航行中、島根県隠岐島沖北北東約106kmの海上で、船体が二つに折損し、船尾部が沈没、船首部は半没状態で漂流しました。船長は死亡しましたが、他の乗組員31名は救命ボートに避難し、救助されました。

ナホトカ号の事故により、折損した部分から重油約6,240klが流出。船首部は約2,800 klを残存したまま、7日午後、福井県三国町に漂着した。流出した油は島根県から秋田県に及ぶ日本海岸に漂着し、甚大な被害をもたらしました。

ボランティア活動参加者は延べ30万人 人海戦術で油を除去

ナホトカ号の事故が注目されたのは、油回収時の一般市民によるボランティア活動でした。油が漂着した場所が岩場のため、油回収で唯一有効な手段が人力でひしゃくを使って油を集める方法しかなかったのです。地元住民に加えて、全国各地からの個人・企業・各種団体によるボランティアが参加、延べ30万人近くと伝わる一般市民によって回収作業が行われました。

ナホトカ号事故のボランティアによって知られた「ボランティアの危険性」と「ボランティア保険」

阪神淡路大震災を機に日本で根付き始めたボランティア文化が力を発揮した事例として大きな注目を集めた一方、真冬の回収作業ということでボランティア活動はとても過酷でした、その結果、回収作業に参加していたボランティア5名が過労など亡くなるという二次被害が発生してしまいました。この一件を機に、「ボランティア活動には危険も付きまとうこと」が周知され、「ボランティア活動保険」への加入が進んだといわれています。

大型船の燃料流出で観光産業や海産物への風評被害が広まる懸念

ナホトカ号事件から学べることは他にもあります。重油の流出以降、油まみれになって油を回収する人々の姿はメディアによって繰り返し放送されました。そのため、世界的に日本の海産物への風評被害が広まることが懸念されました。

日本国内でもメディアによって映し出された油まみれの海岸線の映像は大きなインパクトを与え、該当エリアの観光産業や海産物への風評被害は一定期間続きました。商船三井が座礁したモーリシャス諸島も観光産業が主要な産業であるため、世界的に風評被害が広まることが懸念されます。

SDGsと大型船 燃料流出事故の関係-石川県小松市の事例-

ナホトカ号の事件は2020年今日の私たちの暮らしにも実は影響を与えています。2015年に国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)の中の目標14には「海の豊かさを守ろう」という目標が掲げられています。この目標が目指すのは、

  • 海洋資源の持続可能な利用でいまだ貧しい島国の経済的利益を増大させる
  • サンゴ礁壊滅の危機を食い止める
  • 漁業従事者の雇用を守る

などのため、タンカー油流出事故は環境保護の観点からも非常に問題が多いことがわかります。(商船三井の事故はこれらすべてに悪い影響を与えてしまう)

ナホトカ号の事件をきっかけに今日まで環境保護に積極的に取り組んできた石川県小松市は、SDGsにおいて先進的な取り組みが注目を集めています。小松市SDGs未来都市計画を掲げ、環境美化や環境保護に取り組む小松市の今があるのは、ナホトカ号事故をきっかけに行政も市民も環境保護の大切さに気がついたからだといえるでしょう。

最後に-商船三井の事故/ナホトカ号の事故から島国日本に暮らす私たちが学べることは多い-

商船三井の事故をキッカケに1997年 日本で起きたナホトカ号事件を振り返り大型船の燃料流出事故が与える影響についてみてきました。モーリシャス諸島での今回の事故が今後どのような影響を与えるかはわかりませんが、島国である日本でもいつ同様の事故が起きるか分かりません。ニュースなどをチェックし現状や影響から1つでも多くのことを学ぶことが未来への備えになるでしょう。

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参考資料
ロシアタンカー油流出事故の教訓, 福井県.
災害ボランティアと安全・保障の問題, 日本太平洋資料ネットワーク.
日本の貨物船が座礁し燃料漏出、環境災害の恐れ モーリシャス, AFPBB NEWS
商船三井の貨物船座礁 モーリシャス沖、燃料流出, 時事通信社.

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員/講師。長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員。武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。