「移住離婚」とは何か-移住における新たな現象 価値観の不一致・社会関係資本の違い-

新型コロナウイルス発生以降、リモートワーク推進による脱-職場化の高まりと都市リスクの顕在化により注目を集めている地方移住。これまでもKAYAKURAでは地方移住で気を付けたいことや、そもそも地方移住は加速するのか?など楽観的地方移住加速論に警笛を鳴らしてきました。

数多くの移住者に取材を行う中、近年、地方移住の検討~実施をターニングポイントとして夫婦関係が解消されるケースをいくつかみてきました。そこで筆者は地方移住をキッカケとした離婚を「移住離婚」と定義しました。

  • なぜ地方移住をキッカケとした離婚が起こるのか
  • 離婚が起こるのは移住前なのか後なのか
  • 移住離婚を防ぐ方法

などを取り上げることを通して、地方移住をキッカケとしたネガティブな離婚を少なくすることに貢献していきます。この記事が、いま現在「移住離婚」前で悩んでいる方、現象としての「移住離婚」に興味関心がある方の参考になれば幸いです。

移住離婚の定義と意味

「移住離婚」の定義/概念は「移住の検討段階~移住後の一連の流れをキッカケに起こる離婚現象」を指す言葉です。本記事の中では主に地方移住の事例をみていきますが、国外移住も含む広義の移住現象に当てはまる現象です。

「移住クライシス」という言葉が既に一部で用いられていますが、この言葉が意味する「移住をきっかけに夫婦仲が悪化する現象」は「移住離婚」も含むより広義な概念としてここではとらえられます。

「移住クライシス」が多くの場合移住後の現象を指す(産後クライシスを語源としている)のに対し、「移住離婚」は移住前~移住後の数か月~数年単位の時間の流れの中で起こる離婚現象を指している点が異なります。

移住離婚はなぜ起こるのか

「移住離婚」は離婚の要因に特徴があります。移住離婚の要因として考えられる以下の5つをここからは詳しくみていきます。

  1. パートナー間の社会関係資本のギャップ
  2. 自分探し期間の長期化と多様な選択肢の存在
  3. 多拠点生活/二地域居住を発端とする複数の居場所問題
  4. 都市生活と田舎生活のギャップ
  5. 移住後の生活におけるパートナー間の負担格差

パートナー間の社会関係資本のギャップ

ここではパートナーとして夫婦の事例から社会関係資本のギャップが移住離婚に及ぼす影響を検討します。駒澤大学文学部教授 松信ひろみらの調査によれば、「近所づきあい」への意思決定について夫婦どちらの勢力が強いかを調べたところ妻 34.1%、夫婦 60.4%、夫 5.5%となり、近所づきあいには約94%以上の結婚後の女性が近所づきあいに夫より強く関わっていることが確かめられました。

子どもがいる場合、現在でも男性より女性のほうが長い時間子育てにコミットする傾向は強いため、地域で形成される子育てママさんコミュニティのような場所で男性よりも女性のほうが地域における社会関係資本が強く形成されます。この結果、男性は企業を主とする社会関係資本を保持し、女性は地域に関連する社会関係資本を保持しやすくなります。

地方移住する場合、夫は「収入の確保」「スキルを生かせる仕事ができる」が達成されればどこに住んでいても良い、もしくは定年後も会社の同僚と定期的に会えればいいというケースが多いです。しかし妻は親密な地域の社会関係資本をすべて失って全く新しい地で0から社会関係資本を形成することになります。

夫以上につながりの親密なコミュニティに属していた妻は移住を拒むが、夫は理想を達成するために移住したい、ここで夫婦間のギャップが生まれ離婚へとつながるのです。この傾向は筆者の取材から特に40代50代~リタイア夫婦において顕著にみられます。社会関係資本について知りたい方は以下の記事をご覧ください。

→ソーシャルキャピタル(社会関係資本)とは何か?わかりやすく解説(具体例あり)

自分探し期間の長期化と多様な選択肢の存在

現代社会はE. エリクソンがモラトリアム期間に形成されるものとして「アイデンティティ」を定義した時代から数十年数百年が経ち、ライフステージや周辺環境が変るごとにアイデンティティを探すことが求められる「一生、自分探しの時代」になっています。

昔は1度就職すれば退職まで働く終身雇用が日本では一般的とされてきましたが、現代ではその価値観は崩れ常に新しいステージへの上昇と自己の研鑽が求められます。また結婚した女性も主婦が当たり前ではなく出産前~子育て~子育て後とライフステージが変わる中で、主体的に自己実現を求め働いたりさまざまな活動に参加するようになっています。

その結果、都市での生活に疑問をいだき「地方に移住しよう」と新たなライフスタイルとワークスタイルによる自己実現を求め行動するケースが増えていると考えられます。近年の移住のうち特徴的なものとして取り上げられる「ライフスタイル移住」は「立身出世ではなく、QOLの上昇や自己実現を目的とした移住」であり、まさに個々人の自己実現/自分探しと関連してきます。

その結果、夫婦間で移住の検討をキッカケに価値観の相違が明らかになったり、志向するライフスタイル・ワークスタイルのギャップが見える化されるのです。見える化されたギャップはどちらの志向が良い悪いで測れるものではない一方、自己実現のために妥協も難しいため離婚に帰結していくことがあるのです。

→アイデンティティとは何か?意味や使い方を社会学的にわかりやすく解説

多拠点生活/二地域居住・関係人口を発端とする新しい出会い

新型コロナウイルスで注目されたリモートワーク/テレワークによって、完全に定住するわけではなく一時的に地方に滞在するような移住のカタチが可能になってきています。それらは多拠点生活/二地域居住などと呼ばれるライフスタイルで、関係人口的なつながりのある地域に拠点をもって定期的に通うようなライフスタイルを指します。

ここで立ち上がってくる心配事は、家族単位での関係人口化や二地域居住なら大丈夫ですがパートナーのうち1人だけが新しい地域に拠点を持ち人とのつながりが生まれていくことです。それも良しとする家族の在り方であれば問題ありませんが、つながりのある地域に拠点があるときそこでは新しい出会いがあったり、これまでの家族の在り方に疑問を感じるような機会があったりするかもしれません。

これまでの地域を超えた移動がない場合には起こる可能性の低かった新しい出会いであり、個々人の自己実現や価値観の転換に大きく関わる出来事でもあるため、すれ違いや離婚へと結びつくケースがあるのです。

→二地域居住とは?1年間実践してわかった二地域居住のメリットデメリット
→「二地域居住」と「二拠点生活」の違いはなにか

都市生活と田舎生活のギャップ

移住後の課題としてよくあるのが「予想と違った」ということです。都市在住時にメディアを通して描いていた田舎生活とのギャップ—例えばそれは、虫の多さや噂の広まるスピード—によって、パートナーのどちらかが田舎生活に耐えられなくなってしまうケースがあるのです。

移住当初は田舎生活を受け入れていたものの、時間が経つにつれて都市生活の良さを比較したことで改めて感じ都市生活に戻りたくなるケースもあります。こうなったときにパートナー間で価値観や今後の方向性のすれ違いが生じるのです。生じた価値観の違いを解決するには互いが住みたい場所に住むしかなく、結果、別居からの離婚へとつながっていってしまうので注意が必要です。

移住後の生活におけるパートナー間の負担格差

移住後に驚くこととして地域や学校での役割の多さがあります。自治会、育成会、PTA、消防団などがありますが、担い手には今日においてもジェンダー不平等が起きているケースが多々あります。

日本PTA全国協議会の調べによれば、PTAに関するアンケートの全回答者数約3,000人のうち、女性(88,0%)、男性(11.3%)の比率で圧倒的に女性回答者が多いことがわかっています。男性はPTA以外の消防団への加入などを求められることもありますが、多くの場合昼間会社に行く夫と働いていても比較的家のことを担っている妻とでは、妻のほうが地域にいる時間が相対的に長くなります。

この結果、妻は地域におけるさまざまな関係性に入り込んでいくこととなり都市とは異なる人間関係や距離感・役割に戸惑いを覚えストレス過多になってしまうことがあります。しかし夫は日中会社に行っており地域との付き合いも薄いため、このストレスが理解できません。ここで相互理解が難しくなるにつれて溝が深まり、最終的に離婚となるケースがあるのです。

移住離婚問題を回避するための方法

「移住離婚」は決してネガティブな側面ばかりを持つ現象ではありませんが、多くの人にとっては避けたいことでしょう。そこで筆者がこれまでに聞き取り調査を行ってきた結果をもとに、回避策をリスト化しました。心配な方もそうでない方も1度一通りチェックしわが身を振り返ってみてください。

  • 自分の移住熱の高まりだけで物事をどんどん進めていないか
  • パートナーと移住の検討状況を共有しているか
  • パートナーが大切にしているもの/ことを自分は知っているか
  • パートナーは悩みを1人で抱え込みストレスになっていないか
  • お互いの地方移住に対するイメージは共有できているか
  • 3回以上、パートナーと共に移住後の地域や家を訪れているか
  • お互いが今後の人生で達成したいこと・やっていきたいことは共有できているか
  • 地方移住に際して心配なことは共有できているか
  • 移住後、面倒なことをパートナーに押し付けていないか
  • 移住後の日々の生活をしっかり共有できているか

最後に-「移住離婚」は新たな社会現象である-

地方自治体の移住促進担当者に聞き取りをおこなうとよくあるのが「夫が1人でどんどん地方移住計画を進めていて、家族と共有できていなかった結果、何度も相談に来てくれたのに地方移住がなくなった」というケースです。往々にして、こういうケースでどんどん先に進めるのは筆者の統計上男性です。

移住離婚は地方移住ブームが続く今日の新たな社会現象といえます。それは社会問題ではなく社会現象です。離婚をどうとらえるかは人それぞれですが、離婚したくないのに・パートナーとより明るい未来を描くために地方移住したのに離婚することになったら、これほど悲しく切ないことはありません。移住離婚しないようにパートナー間で情報や価値観を共有していくことを心がけましょう。

KAYAKURAでは地方移住・新しい時代のライフスタイルに関する講座や勉強会の講師・WSのファシリテーション、執筆、関連した地域活性化・地方創生・観光インバウンドなど関連事業のサポート/コーディネートを行っております。お困りの方はお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

参考資料

-ラジオ版KAYAKURA-

ラジオ版KAYAKURAは毎回1つのテーマについて5分~10分で深堀する音声コンテンツです。テーマは社会課題・最新ニュース・地方創生・観光インバウンドなど。スキマ時間の学びを思考を促す内容となっていますので、ぜひ聴いてみてください。

KAYAKURA

KAYAKURAは「新しい地域と観光を考える」をコンセプトに、地域と地域にまつわる言葉や動向を深く考える地域考察メディアです。

この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.