今回、取り扱うのは「オートエスノグラフィー」です。社会学の中でもマイナーなこの言葉。オートエスノグラフィーについて解説された本はまだあまりないので、この記事を通して基本となる考え方だけでも覚えてみてください。
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エスノグラフィーとは?
オートエスノグラフィーの前にエスノグラフィーについて押さえておきましょう。エスノグラフィーは社会学だけでなく、文化人類学や心理学の世界でも広く用いられる質的調査方法です。対象となる社会や民族の特徴や日常的な行動を詳細に記述する調査方法です。
質的社会調査で昔から討議の対象となってきたのが「観察者の客観性」の問題です。客観的な立場に徹するべきなのか、それとも客観的な立場にこだわる必要は無いのか。
私の考えは後者です。質的社会調査における客観性とはそもそも何かという問題はありますが、客観的に調査を行い続けることは難しいと思います。というより、感情を傾けて長い期間、調査を行うと自然と主観的な感覚は生まれてきます。逆にいえば、この感覚が生まれてこないような質的調査は本質的な部分に迫れていないような気さえするのです。
オートエスノグラフィーの意味と方法
慶応義塾大学の岡原教授によれば、オートエスノグラフィーとは「自分の過去の経験を書き記す作業」であり「実際に体験した現場に生々しく立ち戻り、経験された感情を生き戻すこと」であり、つぎに「その現場を離れ、感情が高まっているうちに書く」ことを繰り返すことが求められる調査方法です。日本語では「自己エスノグラフィー」ともよばれます。
つまり自己へのエスノグラフィー、自己への参与観察ということができるでしょう。先ほどのエスノグラフィーに関する客観性問題は、問題にならないほど客観性が無い調査方法です。しかし、この世の中には実際に体験した人にしか書けないことがあることも事実です。
慶応義塾大学の高山によれば、オートエスノグラフィーは「自己の経験について書きながら、そのような自己の経験を書くことが、なにかしらのかたちで他者の経験に重ね合わせられたり、他者の経験に接続されていくことが理想的とされる」とのこと。
私は、この考えに強く共感します。個人の体験をただ書くだけではそれは社会科学的とは言えません。自己の経験を他者の経験、そして時代背景と接続し体験を社会に還元することがオートエスノグラフィーにできることだと思うのです。
最後に-オートエスノグラフィーを学ぶためのおすすめ本 具体例が学べる-
オートエスノグラフィーについて解説された本は多くないと最初に書きましたが、数冊オートエスノグラフィーについて触れられている本があるので紹介します。特に1冊目の『現代エスノグラフィー』は1つの章まるまるオートエスノグラフィーの説明に費やしているのでおすすめです。
どの本も具体例をあげてオートエスノグラフィーを扱っているので、実際にオートエスノグラフィーを用いた研究について知りたい方は、これらの本を参考にさらに深堀することをおすすめします。
感情を生きるposted with ヨメレバ岡原正幸/小倉康嗣 慶應義塾大学三田哲学会 2014年03月28日 楽天ブックスAmazonKindle
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