ワーケーションの可能性を提案し続ける先進地 長野県千曲市-秋の体験会レポート-

10月に和歌山県白浜町でワーケーションリーダーズサミットが開催され、11月に長野県でワーケーションEXPO@信州が開催され、全国の様々な自治体や企業が熱いまなざしを向ける「ワーケーション」。

KAYAKURAではこれまでも多くのワーケーション考察記事・体験記事を公開してきましたが、今回紹介するのは長野県千曲市のワーケーション体験会です。

独特なポジショニングとちょっと変わったコンテンツで全国の人々を魅了する千曲市のワーケーションとは一体どういうものなのか。11月4日~6日に開催されたワーケーション体験会に参加(一部スタッフ・運営側として関わった)した模様をお届けします。

千曲川畔でのランチからワーケーション体験会はスタート

ワーケーション体験会は2019年に台風19号で大きな被害を受けた千曲川のほとりからスタート。お昼ご飯は地元旅館の人気メニューであるローストビーフ丼。初めて会った人同士、和気あいあいと交流を兼ねて外で昼食を食べました。

昼食後は、地元の方の案内でサイクリングツアーへ。車の速度では気がつかない地域の魅力を知ることができるサイクリングは、環境にも身体にもよいため、意識しないとあまり体を動かさないワーケーションではピッタリのコンテンツです。

体験会後の事後調査結果によると、7割近くの方がワーケーション体験会中は普段よりも活動量が増加したと回答しています。あわせて全体満足度も全員が5段階評価で4以上をつけていることから、楽しく体を動かせる移動手段を提供することがワーケーションの満足度向上につながる可能性があると考えられます。

ワークスペースは何か所かありますが、千曲市の体験会で多くの方が使われるのがこちらの公共施設。オシャレさはありませんが、遊休資産を活用することで参加者にも行政にもWin-winな態勢がつくれています。

温泉MaaSアイデアソン-参加者・行政・市民が協働で”地域の移動”を考える-

2日目御膳には、一般市民や行政関係者も参加しての共同コンテンツとして「温泉MaaSアイデアソン」が開催されました。

主催はワーケーション体験会を主催する株式会社ふろしきやの田村さん、そして過去に千曲市ワーケーション体験会に参加し「ぜひMaaSアイデアソンやろう!」と意気投合した、日本マイクロソフト株式会社 MaaS & Smart Infrastructure ソリューション本部 専任部長 清水さん、株式会社クリエイターズ・ラボ代表取締役 柳さんの3人。

日本の第一線でMaaSに携わる人たちが主催していることもあり、当日は50名近くの参加者がありました。

千曲市のワーケーション体験会は県内随一の温泉地である戸倉上山田温泉を中心に開催されます。しかし少子高齢化や移動手段の不足、観光客の移動のしにくさなど課題は多数。そこで今回「全国によくある温泉のある地方都市」をモデルとして、観光・地域交通・物流含めた新しいMaaSアイデアを出すアイデアソンが開催されました。

MaaSアイデアソンというコンテンツに魅かれてワーケーション体験会に参加した人もおり、参加者の負担にならない範囲で、自由参加で質の高い学びあるコンテンツを提供することは、今後ワーケーションを推進していく上でポイントとなりそうです。

事後調査結果によると、体験会参加者の4人に1人が最も印象に残っている体験として温泉MaaSアイデアソンを挙げており、ワーケーション内での充実した学びあるコンテンツはワーケーション全体の満足度と結びつく可能性が高いと考えられます。

姨捨のゲストハウスなからやで交流会

2日目夜は夜景の名所 姨捨のゲストハウスで交流会。同じワーケーション体験会に参加していても意外と他の参加者と話す機会は少ないですが、このように意図的に全員が自己紹介し話す場を作ることで”セレンディピティ”が生まれ、参加者の満足度向上へとつながります。

事後調査結果によると、約3割の参加者が体験会内で10人~15人と交流し、2.5割の方が15人~20人と交流したと回答。またワーケーション体験会中の他の参加者との交流はメリットがありましたかという質問に関しては、およそ9割の方があったと回答しました。

「あなたにとってワーケーションとはなんですか?」という質問に対する回答でも、「関係人口創出の起爆剤」「人との繋がり」「セレンディピティのキーファクター」などの回答がありました。

企業がワーケーションを推進する際には生産性やリフレッシュに重きが置かれ、自治体が推進する場合には「移住促進」「企業誘致」などに重きが置かれやすいですが、事後調査結果からは「人との交流」がワーケーションにおいて参加者が満足する大きな要素であることが明らかになりました。

さまざまなワーケーションの在り方はありますが、主催側は意図的に「交流する」「人とつながる」機会を創出することは今後のワーケーションのポイントとなりそうです。

地元の宿泊施設に泊まり経済的なメリットを創出

ワーケーションが「よそ者が来てなんかしている」と地元の方々に認識され、それよりも先に進まないととてももったいないです。地元の方々もメリットを享受し「ワーケーションの人が来ると私たちにもメリットがある」そう感じてもらうことが、サスティナブルなワーケーションのつくりかたです。

千曲市のワーケーション体験会では、2泊3日の行程で約25人~30人が宿泊しています。私が泊った宿は1泊1万5000円程度だったので、同じぐらいの金額で2泊3日30人が泊るとすると90万円のお金が地域に落ちていることになります。

大きな宿泊施設からすると微々たる金額かもしれませんが、中小規模の宿泊施設からするとコロナ禍で宿泊者数が少ないときに泊まってお金を落としてもらえるのは嬉しいもの。ワーケーション主催者が常に「どうすれば地域にお金が落ちるのか」の仕組みを考え続けることが、サスティナブルで地域と共生するワーケーションを実現します。

夢ワーケーションアイデアソン

今回のワーケーション体験会には、温泉MaaSアイデアソンのほかにもう1つ目玉コンテンツがありました。それが理想の働き方とワーケーションを考える「夢ワーケーションアイデアソン」です。このアイデアソンには、私も運営側として関わらせてもらいました。

会場は朝、全員で瞑想体験を行った善光寺大本願別院。こたつに入りながらのアイデアソンはちょっと異様な光景ですが、体験会を通して感じたことを参加者同士で共有し次に生かす場はとても盛り上がりました。

失敗するワーケーション誘致・体験会開催でよくあるのは「主催側がワーケーションをしたことがない」「主催側がワーケーション実践者からのフィードバックを受けていない」パターン。アイデアソンは参加者の満足度を高めるだけでなく主催者側が正当なフィードバックを受けるための装置にもなります。

夢ワーケーションアイデアソンには、総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官内閣官房内閣審議官の箕浦龍一氏も参加。箕浦氏も交えてのアイデアソンは、民間事業者、地方自治体担当者、国、地域住民を巻き込んでの充実した場となりました。

事後調査結果では、他のコンテンツを押さえて夢ワーケーションアイデアソンを最も印象に残っている体験として挙げた人が3人に1人という結果になりました。ワーケーションで働き方やワーケーションについて多様な人たちと語る、このフォーマットは他のワーケーション体験会でも効果的に活用できそうです。

最後に-ワーケーションの新たな可能性を提案し続ける先進地 長野県千曲市から目が離せない-

千曲市ワーケーション体験会は今回で4度目とのことでしたが、回数を重ねることで参加者からのニーズがどんどん明らかになり、主催者側もよりマッチしたコンテンツが提供できる体制ができてきていると感じました。しかしそれは主催者側だけの発想ではなく、体験会参加者との交流を積み重ねてきた結果です。

ブームになりつつあるワーケーションですが、本来の目的を達成するためには世間の波を意識せずコツコツとできることを行っていくことのが重要です。これからもワーケーションの新たな可能性を提案し続ける先進地 長野県千曲市から目が離せません。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員/講師。長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員。武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。