「日本の農業に未来はあるのか?」
「若手就農者不足が深刻」
テレビのニュースや新聞では、農業の未来を心配する声が度々話題になる。最近では行政が移住促進施策として新規就農者を手厚く支援する取り組みを始めたり、ITを積極的に活用したりする農家が増えてはいるものの農業の人材不足はあまり改善されていない。
このような農家の現状を打破するための講座を長野県農業士協会が2020年2月10日開催した。毎年開催している経営強化研修をアップグレードするため、人材採用業界で注目を集めるウォンテッドリー株式会社と組んで開催された今回の講座。
東京のITベンチャー企業と現役農家がSNSの活用法を語り、情報発信・後継者不足に悩む農家が一歩踏み出すために背中を押すことが狙いだ。
ゲストスピーカーは、SNSを活用した魅力発信に成功している長野県佐久地域の農家のらくら農場代表 萩原紀行さん、オンライン直売所「食べチョク」を運営する株式会社ビビッドガーデン代表取締役社長 秋元里奈さん、ビジネスSNS「Wantedly」を運営するウォンテッドリー株式会社執行役員 兼平敏嗣さんの3名。
各ゲストスピーカーの実践と分析をもとに、生産者がSNSを活用した情報発信や採用をどのように行っていくのか、およそ3時間にわたり学んだ。講師の3名に共通していたのはSNSだけでなく「SNS」「ファン」「共感」「マーケティング」。
生産者はもちろんのことすべてのビジネスパーソンにとって学びある内容を全3回に分けて公開する。第1回目の今回はオンライン直売所「食べチョク」を運営する株式会社ビビッドガーデン代表取締役社長 秋元里奈さんによる約1時間の講座レポートである。
※本記事執筆者が諸事情で講座の初めから参加できなかったため、本記事ではのらくら農園代表 萩原さんの講演内容を割愛させていただきます。なお萩原さんは第3回目で掲載するトークセッションに参加されていたため、トークセッション部分では萩原さんのお話をできる限り多く掲載します。
消費者と生産者が直接つながることでファンが生まれる
神奈川県相模原市の農家に生まれる。慶應義塾大学理工学部を卒業した後、株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。webサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げを経験した後、スマートフォンアプリの宣伝プロデューサーに就任。2016年11月にvivid gardenを創業。(https://vivid-garden.co.jp/より引用)
秋元さんは消費者と生産者を直接つなぐプラットフォーム「食べチョク」を運営する株式会社ビビッドガーデンの代表を務めている。「食べチョク」は単純に「消費者」と「生産者」をつなぐのではなく、ファンをつくるプラットフォームだと秋元さんはいう。
食べチョクはファンづくりのプラットフォームです。無料で誰でも登録でき売れたら販売手数料を食べチョクに支払う仕組みなので導入も簡単です。売れたら消費者から直接感想が届くのでやりがいやモチベーション向上にもなります。消費者と直接つながりかつお互いの思いや感想の共有ができる仕組みをとることで生産者にファンが生まれるのです。
なぜいま生産者は「ファン」を作る必要があるのか?秋元さんは生産者がファンを作ることの意義は主に以下の3つがあると指摘する。
- 販路拡大 ブランディング
- マーケットリサーチ
- 自身・従業員のモチベーション向上
大前提として消費者には大量の選択肢があふれている。新たに生産者のファンになってもらうためには、これまで買っていたところで買うことをやめて切り替えてもらう必要がある。そのために欠かせないのが「消費者に寄り添ったアプローチ」なのである。
消費者に寄り添ったアプローチをするためにはマーケティングが欠かせない
どうすれば消費者に寄り添ったアプローチができるのか。秋元さんは生産者はもう1度しっかりとマーケティングを学び意識すべきだと指摘する。
常に誰に(Who、何を(What)、どのように届けるのか(How)を意識して戦略を立てる必要があります。誰に売るかのイメージを明確に持ち、顧客が求めている商品をつくり、顧客に合わせたツールで発信することが重要です。食べチョクでは消費者に寄り添ったアプローチをするために、定期的なインタビューやアンケートでの調査を実施してとても詳細なペルソナを設定し社内で共有しています。
食べチョクでは、インタビューを通して当初想定したのとは異なるペルソナを設定する必要が判明したことが実際にありました。
マーケティングの基礎をもう1度確認したうえで、秋元さんは食べチョクのさらなるこだわり(他社との差別化戦略+より消費者に寄り添うためのアプローチ)について語ってくださった。
食べチョクは、手作り感の高いもの+丁寧な発送を大切にしています。生産者視点だと当たり前のことでも消費者には分からないことはたくさんあります。「この野菜の特徴は何か」「どうやって食べるのが美味しいのか?」「保存方法はこうしたほうがいい」など人柄が伝わる丁寧な発送を地道に行うことでファンが増えていくのです。
食べチョクは登録する農家に多くを指示することはなく基本的にはそれぞれの生産者が自分なりにこだわりを持って発送を行う。だからこそ個々の生産者の良さが現れ消費者は多様な選択肢の中から自分のお気に入りを見つけファンになっていくのである。
より具体的な「手作り感の高いもの+丁寧な発送」としては以下のような事例がある(一部抜粋)。
- 発送時に野菜と一緒に農園通信を同封 通信は定期的に内容が更新される
- 地方新聞を包装につかうことで生産者が暮らす地域のリアルを消費者に感じてもらう
- 道端のお花を入れる
根気強く継続するしかSNSで効果を出す方法はない!
後半は食べチョクが実践するSNSでの情報発信についての話題に。食べチョクではSNSごとにペルソナを設定し掲載する内容を細かく変えている。食べチョクファンとの密度が最も濃いのはLINE、拡散力が高いのはTwitterなどの現状において、特に力を入れているのがInstagramだという。
食べチョクではInstagramアンバサダー制度があります。アンバサダー制度は食べチョクが好きで発信力のある食べチョクファンの方を認定し、その方々に情報発信をお手伝いしてもらうというものです。毎月無料で野菜を送るかわりに生産者さんを応援する発信をしてもらっており、インフルエンサーマーケティングに近い形式をとっています。
SNSによってユーザーを増やしてきた食べチョクだが、秋元さんは必ずしもSNSでの発信はやらなくてもいいという。
SNSでの発信で必要なのはとにかく根気!根気よく継続するしか効果を出す方法はありません。息を吐くようにSNSで発信できる人が向いている人なので、情報発信が好きだったらやるのがいいと思いますし、自分が不得意なら得意な従業員に頼むのもありです。あくまでSNSは消費者に情報を届けるHowの1つにすぎません。SNSでファンがいなければ売れないわけではないですし、売れている人でSNS以外のHowを活用している人はたくさんいます。
講座に参加している生産者はSNSで発信する意欲が高い方々である。会場からの「SNSでバズる投稿や多くの人に見られる投稿はなんですか?」という問いに秋元さんは以下のようなヒントを話してくれた。
狙ってバズることはほぼありません。SNSの投稿に正解はないんです。ただ傾向として生産者が発信してバズる投稿は、農業の現場という一般人からすると非日常的なできごとを動画や写真付きで発信するものです。形状が面白い大根などのキャッチ―で分かりやすいもの、農業や経営における思いなどの共感を得やすいものが多くの人に見られている印象があります。
Twitterやnoteをうまく活用している生産者さんもいます。一瞬のバズりや話題性ではなくストックとして情報をSNSに蓄積していくことで、新しい顧客の方が見てその 生産者 がどんなこだわりをもってどういう商品を作っているかがわかる。そんな場所としてSNSを使うのも効果的です。
まとめ-食べチョク成功の公式はファンづくり×マーケティング×SNS情報発信-
食べチョクは食べ物へのこだわりが強い生産者と消費者が集まるプラットフォームである。秋元さんの立ち上げ時の思い「こだわる人ほど売れる仕組みが作りたい!」を実現するために積み重ねてきたファンづくり×マーケティング×SNS情報発信のノウハウは生産者のみならず、ビジネスを行う全ての人に学びがある内容であった。
次回の記事では、ビジネスSNS「Wantedly」を運営するウォンテッドリー株式会社執行役員 兼平敏嗣さんによる人材採用についてを取り上げる。人材採用でもこれからの時代に重要なのは情報発信、マーケティング、そして共感であると兼平さんはいう。
株式会社ビビッドガーデンWebサイト