数としては必ずしも増加の一途をたどっているわけではない移住者だが、最近も劣ることなくその存在感が強まっている移住者。本連載では「よそ者としての移住者が移り住んだ先の地域に対してどのような影響を与えるのか」「近年の移住トレンドの中で表には出てこない課題や地域内のコンフリクトにはどのようなものが存在するのか」を社会学的な視点と実際の事例をもとに複数回に分けて考察する。メディアではプラスの側面が多く映し出される地方への移住現象だが、マイナスな側面や扱いづらい事例にあえてフォーカスすることで移住現象の多様性とその実態を深く読み解いていければと考えている。
よそ者としての移住者と地域づくりに関する先行研究
よそ者は5つのプラスな効果をもっている
地方地域社会におけるよそ者と地域住民の相互作用とよそ者の役割について論じた特徴的な研究として、敷田によるものがある。敷田は、自治体による地域活性化ではない「地域づくり」 と呼ばれる多様な地域の関係者が関わる地域活性化に焦点を当て、住民以外の外部者「よそ者」の地域づくりへの関与について論じた。地域づくりにおいてよそ者が地域にないものを提供したり、関わることでプラスな効果が現れたりしたことで、よそ者効果が注目を浴びている現状を踏まえ、敷田は下記の5つのよそ者効果を検討している。
第三者としての視点、再発見効果、知識移転効果などがある
- よそ者が持つ「地域の再発見効果」
- よそ者による「誇りの涵養効果」
- よそ者が地域にない知識や技能を持ち込む「知識移転効果」
- 地域の変容を促進する効果
- よそ者が持つ「地域とのしがらみのない立場からの解決案」の提案
プラスの面だけでなくマイナスな面や課題もある
これらの効果を独立した事象として整理したうえで敷田は、実際の地域づくりではこのような効果が複合的かつ同時に起きていると論じ、これらがどのように発現しているのかに考察のポイントを置くべきと論じた。
そのうえで、敷田はよそ者の限界と課題にも触れ「自らリスクを負うことが少ない」「第三者的なアドバイスに陥りがち」である点を課題とした。また、地域の同質化が進んだことにより従来は地域にいたよそ者予備軍である若者を都会に流出したため地域がよそ者を積極的に求めるようになっている。しかし、よそ者の消化能力を失った地域で必要とされているのは他者でありながら他者でない「よそ者性を除いたよそ者」=「毒が無い安全なよそ者」であると敷田は結論付ける [敷田麻実, 2009]。
よそ者である外部者・移住者を選びたいけど選べない農村側住民
学生運動の衰退が「よそ者」としての移住者と関係している
ここまで、敷田による地域づくりのアクターとしてのよそ者が地域与える効果と課題をみてきた。最後に敷田が触れた「よそ者性を除いたよそ者」=「毒が無い安全なよそ者」を地域が必要としているという一節は、もう少し補足する必要があるように感じる。
日本における地方への移住動向は1970年代に本格化し始めたといわれている。1968年を一つのピークとした学生運動の失敗ののち、参画した若者たちは夢破れ大きく2つの道に分かれていった。1つは米国の影響が色濃く残る西側諸国の一つである資本主義国家日本の中で”一般的”な働き方であるサラリーマンになり、大手企業に就職し家族を持ち順風満帆な生き方を実践する、システムの中に組み込まれる代わりに”普通”の暮らしをする道である。
ヒッピー文化の影響を受けた脱消費社会的暮らしを地方で実践することを目指した
それに対して、非常に少数ではあるが2つ目の道として大きなシステムとしての資本主義、国全体米国との従属関係や消費社会から抜け出せないのであれば、自分が生きている”この世界 (my world)”だけでもそこから抜け出すことはできないかと考えた道である。
2つ目の道を選んだ彼らは持続可能な生き方を実践するために郊外で自然に寄り添った暮らしを実践したり、地方に移住し農村部でコミュニティを形成しヒッピー文化の影響を色濃く受けながらゆったりと日々を過ごしたりしようとした。農村部にやや足早に移り住んだ彼らは、地域の住民と仲良く暮らしていくことは当然難しかった。しかし、今でも1970年代からのつながりを維持し地域づくりのモデルケースとなっている場所も全国にはいくつか存在す。
農村側住民とよそ者としての移住者の価値観とライフスタイルの違い
上記の例は極端ではあるものの、今でも地方への移住動機として大きく変わらない部分が形式としてはある。都市的な消費社会から脱消費ライフスタイル(経済的かつ立身出世主義ではない持続可能な暮らしの実践)を目指して地方に移住するタイプの人はリーマン・ショックと東日本大震災後に増加したといわれている。
また、J・ボードリヤールが記号消費と名付けたような消費スタイルに疑問を感じ、表層的ではない本質的な価値を求めた結果として最後の消費対象である「Me」をよりよい状態にするため地方に移住するという側面もある(しかし、これも結局のところ、健康ブームや地方移住ブーム、ロハス、持続可能な生活、丁寧な生活といったメディアを通して伝えられた記号の消費と自己実現に変わりはない。これに関しては別の機会に触れる)。
都会以上に都会的な地方と理想の地方像に移住者はギャップを感じる
これらのライフスタイルや価値観をもって地方に移住してきた人々は、郊外化されつつある地方においてある側面では東京以上に消費することに価値が置かれ持続性が無いライフスタイルと閉塞的であるために止まった価値観に触れ、描いていた理想(メディアに作り出されたモノや観光客として訪れた際に触れた表面的なもの)とのギャップを感じるのである。
しかし、彼らは自身の理想をもちその実現のために住む場所を変え仕事を変えるほど積極性があるので地域に対して能動的に変革することを求めることも少なくない。そして、コミュニケーションを重ねるごとにライフスタイルと価値観の違いに双方気が付きはじめ、能動的な移住者や理想のライフスタイル、価値観の実現を第一目標とする移住者と農村側住民の間に壁が生まれるのである。
結果として、農村側住民の認識は「移住者が来てくれるのはありがたいけどめんどくさい人には来てほしくない」「昔のヒッピーみたいな人とか、左翼的な原発反対とか農薬反対ばかり言っているような人には来てほしくない」「東京から来た人は偉そう」といったカタチに一部でなってしまうのである。
次回は、実際の事例をもとに農村側住民と移住者の関係を読み解きます
連載1回目は、よそ者としての移住者にどのようなケースが存在するのか、農村側住民と移住者のコミュニケーションが一部で上手くいかない理由を先行事例や抽象的な話をもとにみてきた。次回は、実際に筆者が地方地域社会で触れた事例をもとに上記の抽象的な事例をより分かりやすく考察していく。
参考文献
敷田麻実, 2005, 「よそ者と協働する地域づくりの可能性に関する研究」『江渟の久爾』江沼地方史研究会, 50: 74-85.
敷田麻実. 2009, 「よそ者と地域づくりにおけるその役割にかんする研究」『国際広報メディア・観光学ジャーナル』国際広報メディア・観光学ジャーナル編集委員会, 9: 79~100.
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