観光大国フランスは、どうコロナウイルスから観光を取り戻すのか-現地研究者からの報告-

欧州を中心としたパンデミックが宣言され早3ヶ月。芸術の都「パリ」、海と太陽の南仏「プロヴァンス」、そんな憧れの旅行先であるフランスの観光産業もコロナウイルスの影響により停止しました。現在は55日間に及んだ国全体でのロックダウンを経て日常を取り戻しつつあります。

フランスは自国のバカンス文化、世界一訪問者数のインバウンドを誇る観光大国です。そんなフランスはどう観光を取り戻していくでしょうか?この記事ではフランスの大学で観光研究を行う筆者が、フランスのコロナウイルスと観光業の関係を移動制限解除の段階ごとにまとめ解説していきます。

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フランスの新型コロナウイルス被害と現状

現在までにフランスのコロナ被害は感染者数15,3万人、死者数2,9万人を記録しました(6月6日現在)。フランス政府は3月13日に全ての学校と大学を閉鎖し、そして3月17日から外出禁止令を伴う2ヶ月弱のロックダウンを実施。その成果もあり、現在では感染者数増加が落ち着き徐々に規制緩和がされています。

フランスにおけるコロナ禍の観光概況-「移動制限緩和の段階」と「観光の再開」-

ロックダウン中(3/17 – 5/10)

最低限の職業目的の通勤、自宅から1km以内の個人スポーツが可能、外出許可証が必要。

➡「観光は不可能で、産業は完全にストップ

コロナウイルスにより観光産業は大きな打撃を受けました。フランスの観光産業はGDPの8%を占める主要産業であり、経済規模の維持や雇用確保の面からもその支援が必要不可欠です。

フランスでは、コロナウイルスの影響により企業が通常業務ができない場合でも、全労働者に対し額面の70%(手取りの84%)の給与を支払う義務があり、それらは国が保証しました。コロナウイルスの影響で休業した、昨年同月より50%以上収益が落ちたなどの基準を満たせば、更なる支援も行われます。くわえて、商業施設やオフィスの多くで家賃支払いが延期されています。

フランスではロックダウン中、毎日数千人規模で患者数増加を経験し医療崩壊が発生しました。しかし、その状況下でもメディアでは「この夏はバカンスに行けるのか?」とテーマとしたニュースや討論が盛んにされていました。

自粛を重んじり日本人からすると少し違和感があるかもしれませんが、さすがはバカンスの国です。フランス人はどんな状況でも次の旅行が気がかりです。

移動制限緩和:第1段階  (5/11 — 6/1)

自宅から100km圏内以内の移動可能 、公共交通はマスク着用が義務化、飲食店やホテル等を除く商業施設が営業可能に。➡「自宅から100km圏内以内の日帰り周辺観光」、「ハイキングなどアウトドアスポーツが可能に」、

10人以下での集まりが解禁され、外出証明書も不要になりました。公園では多くの人が集まり、ビールを持ち寄って楽しそうに語り合っています。

公共交通機関は通常に比べ本数が少なく、マスク着用義務がありますが、100km圏内での移動が可能になりました。まだホテル等の営業は禁止されているので、実質的に日帰り観光のみが可能です。多くの会社が在宅勤務、学校も分散登校ということで、平日でも家族での外出が目立ちます。

私が居住するフランスアルプスの麓、グルノーブル近郊の山中にあるチーズ農園では、チーズのテイクアウトに列ができていました。長期の外出制限明けにフランス人家族や友人グループは、お互いに距離を取りながらもピクニックを楽しんでいました。

5月14日に観光産業に特化した経済支援もフィリップ首相により発表されました。ホテル、レストラン、観光産業の経済支援のために180億ユーロ(約2兆円)の支援が行われる予定です。

労働者・企業支援の充実

  • 労働者への休業保証は、ホテル・レストラン・観光セクターにおいては、少なくとも9月末まで継続。
  • 2020年末まで零細企業などに向けた経済的支援の継続を決定。前支援策よりも支給条件を緩和。
  • 2020年3月から6月の社会保険料の雇用主負担を免除。この措置は営業停止期間中は継続される。

観光客の損失補償

  • 7−8月の国内旅行の際に、感染拡大によりバカンス先に出発できない場合の予約キャンセルは全額払い戻しを保証する。

融資・投資の拡大

  • これまでにおよそ5万社に対し総額62億ユーロを融資したが、この融資額がさらに増加。
  • 公的投資銀行による観光業向け融資枠を2億5,000万ユーロから10億ユーロに大幅拡大。
  • フランス預金供託公庫(CDC)とBPIフランスが13億ユーロの資金を供給、ならびに民間資金を含めた総額67億ユーロを観光業界に投資予定。

移動制限緩和:第2段階 (6/2 — 6/15)

国内移動制限の解除、飲食店やホテル、観光施設の営業が可能に➡「宿泊を伴う国内観光が再開」、「歴史的建造物、美術館、博物館、ビーチでの滞在が可能に

ついにフランス国内移動の制限が解除され、これまで閉鎖されていた観光施設も入場人数制限等はあるもののオープンします。レストランやホテルでもソーシャルディスタンスを保った受け入れが取り組まれます。

グルノーブルのバルでは以前よりもテーブルの間隔が広げられ、カウンターでの注文時にはマスク着用とアルコール消毒が必須です。若者達は久々に友人と再開し、会話に夢中です。初夏の夕暮れの心地よさにお酒も進み、どうにも距離が近くなってしまうようでした。

移動制限緩和:第3段階(6/15 [予定]— )

EU圏内からフランスへの移動が可能に。➡ 「インバウンドがEU圏内限定で回復

これまで外国からフランスに入国した場合は、14日間ホテル等での隔離措置が必要でしたが、一部の感染地域以外はその制限が解除されます。なお前年のフランスへの外国人訪問者のうち、EU圏内は78%を占めており、フランスの観光業における主要市場です。

しかし、AFPの報道によると、2020年の旅客機による移動者数は世界全体で良くて35%減少、悪くて65%減少するとも見込まれており制限が解除されてもすぐに回復する希望は薄いでしょう。フランスは外国人訪問者数世界一のインバウンド大国であり、その影響を大きく受けます

この夏の観光業は「フランス人がどこまでフランス国内を旅行するか?」の重要性が、例年に比べ高いと思われます。

今後の制限解除 (時期は未定)

EU圏外からの訪問受け入れ」、「フランス人の海外旅行解禁」、「大規模イベント・スポーツ観戦等の再開

この夏に予定されていた、芸術やスポーツに関するイベントは軒並み中止を決定しています。そうしたイベントの中止をいつまで継続するのかが、観光業にとっても重要になります。

観光大国フランスの特徴と今後の観光産業の見込み

日本も含め観光業の経済規模が大きい国はコロナウイルスの影響を大きく受け、それは観光大国フランスにおいても避けることができません。

日本ではポストコロナの観光の回復について、観光需要の回復が「近隣観光 ➡ 県内観光➡ 国内観光 ➡ 国際観光 」と、観光地に物理的に近い地域の集客から回復していくといわれています。

フランスでは法令による厳格な移動制限がなされた違いはあるものの、その通りの展開で観光需要が回復していることがわかります。

フランスと日本における大きな違いは、自国に大きな観光需要が存在することです。フランス人の休暇は法令により毎年5週間でありその消化率はほぼ100%です。その休暇の多くが旅行にあてられリゾート滞在は1週間以上の長期滞在が主流です。

今後、フランス人がポストコロナの早期に海外渡航を懸念し、予定された海外の訪問先がフランス国内に変更になる可能性は十分にあるでしょう。そうなれば、フランスの観光地域は、例年と異なるパターンの大きな観光需要を確保できると思われます

最後に-フランスの事例から考える「今後の日本人のツーリズムデザイン」-

近年、日本のインバウンド推進を背景に、フランスの世界一のインバウンドに注目が集まりますが、歴史的にはフランス人のために休暇制度やリゾート政策を盛んに実施してきた国です。ポストコロナ期においてそれらの取組により形成された自国の観光需要が、まず、フランスの観光産業を支えていくと思われます。

近年、日本ではインバウンドが重視されますが、今一度「日本人のツーリズムをどうデザインするのか?」を考えることが、真の観光立国につながっていくのではないでしょうか?

参考資料
Agence France-Presse on Twitter
Infection au nouveau Coronavirus (SARS-CoV-2), COVID-19, France et Monde
Lancement du Plan de soutien au tourisme

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この記事を書いた人

吉沢直

1993年生まれ長野県白馬村育ち。現在はグルノーブルアルプ大学(仏)にてVisiting Researcherとして観光大国フランスのツーリズムを研究中。筑波大学大学院の博士課程にて観光地理学の立場から日本の山岳リゾートのインバウンドやスポーツツーリズムに関する研究も行う。