「補助金」という移住促進施策をやりすぎないほうがいい理由-地方移住を妨げるのはコストよりも○○-

2020年9月25日の日本経済新聞記事によると、政府は2021年度から、テレワークで東京の仕事を続けつつ地方に移住した人に最大100万円交付する制度を始める予定です。また地方でIT(情報技術)関連の事業を立ち上げた場合は最大300万円の支援も受けられるようになります。

今回のような「地方移住すると○○円補助」といった地方移住促進施策は、これまでも数多く実施されてきました。実施主体は国がやるものから地方自治体によるものまで大小様々ですが、これらの「地方移住」を促進するために「金銭的補助」をする施策が実施されるたびに注目されるのが、その効果です。

本記事では「移住支援施策としての金銭的補助」へのニーズや金銭的補助の課題的側面などをみていきます。ピンポイントでこのテーマについて調査したものが過去にあまりないため、既存のデータを基にした予測や分析が主になりますが移住促進に携わる人、地方移住支援についてモヤモヤしている人に届けば幸いです。

地方移住のハードルは「コスト」よりも「人間関係」「情報不足」

一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN)は2017年に、20代~30代の既婚男女で、地方への移住に興味がある500人を対象に「若者の移住」調査を実施しました。その中の「地方への移住を妨げている大きな要因は何ですか(複数選択)」という質問に対する回答が次の画像になります。

引用, 「若者の移住」調査

この調査結果からは以下のようなことがわかります。

  1. 「コスト関連」よりも「人間関係」や「情報不足」のほうが地方移住のハードルになっている
  2. 「コスト関連」が地方移住を妨げる要因だと考えている人は全体の25%にとどまる

地方自治体や国による移住促進策として、特に子育て層を対象とする場合に行われることの多い金銭的な支援ですが、実は移住希望者にとっては金銭面はそこまでハードルとなっていないことがこの調査結果からわかります。

「コスト関連」よりも「人間関係」や「情報不足」のほうがハードルになっていることは興味深い点です。この感覚は、例を考えてみるとわかります。たとえ移住時に500万円の補助を受けたとしても、移り住んだ地域で村八分に近い状態になったりアクセスがとんでもなく悪かったとしたら、移住後の満足度や幸福度は全く高くなりません。

これらからわかるのは「移住時の金銭的補助」を求める人は一定数いる一方、「移住後の環境に関する支援(事前の情報共有・人間関係)」が整っていないと、関係性は短期間で終わってしまう可能性が高い」ということです。

「行政サービス」より「人間関係」のほうが生活満足度に影響する

地方自治体や国が地方移住を促進する際、その成果の指標となるのは「移住してきた人の数」や「相談件数」です。これらの指標は一見すると移住促進施策の指標として妥当にみえますが、実はこれだけでは正しく実態を読み解くことはできません。

移住時の金銭的補助は、「移住してくる人の数」や数字に魅かれて「相談に来る人の数」を増やす効果があると考えられます。しかし移住時の金銭的補助が「定住すること」「長期的に関係人口化すること」に効果があるかというとそれは違います。

片田・浅田らの研究によれば、移住者も地元住民もコミュニティ満足度のほうが社会基盤満足度より大きな値となっており、総合的な地域での満足度に与える影響が大きいことがわかっています。

また個人が自らが住まう地域に対していだく住み良さ感は、社会基盤整備による居住利便性のみに基づくものではないことが明らかになっています。

つまり「公共施設の充実度~金銭的な移住支などの行政サービスの質」よりも「地域内での人間関係」「交流機会の充実」といった「コミュニティ満足度」のほうが、移住後の満足度に与える影響が大きいのです。

先ほどの2つの研究結果はとても示唆的です。第一に先ほどの「若者の移住」調査結果から、「コスト関連」よりも「人間関係」や「情報不足」のほうがハードルになっていることがわかっています。この状態を改善しないまま国や地方自治体は「移住促進のための金銭的補助」をしても、多くの人の地方移住へのハードルは低くなりません。

第二に「移住促進のための金銭的補助」は、税金をつかって「将来的に地域住民になる人=その時点では住民では無い人」である移住希望者を支援する政策です。そのため行き過ぎた支援は地域住民からの反発や不快感を招く可能性があります。

片田・浅田らが明らかにしたように「地域内での人間関係」「交流機会の充実」といった「コミュニティ満足度」を高めるための施策は、移住者にとっても地域住民にとっても生活の満足度が高まるものです。このためこちらのほうがより正当かつ効果的に税金が用いられているといえるでしょう。

以上のことから、「移住促進のための金銭的補助」は一定の移住希望者から求められてはいるものの、そこまで効果的ではないと考えられます。そして同じ金額を投資するのであれば、今よりももっと地域住民の生活満足度や幸福度を高めるために使ったほうが、結果として移住者との関係性が長続きすると考えることができるのです。

最後に-移住促進のための補助金競争は地方自治体を疲弊させる-

以上のようなことが各種調査結果から言える一方、全国の地方自治体は「移住促進のための金銭的補助競争」に陥っている現状があり、国もその競争に拍車をかけている現状があります。金銭的な支援競争は値引き合戦を繰り返した挙句、業界全体が停滞する現象と同じで全体の価値を下げ競争力も下げ疲弊していくだけです。

移住施策を評価する際に、移住者が増えたか・相談者数が増えたかといったものは計りやすい指標ですが、せっかく移住してきても生活満足度が低かったり定住してもらえなかったり、関係人口化しなかったりしたら、それは政策が成功したとは言えません。また地域住民にとっても移住者にとっても行政にとっても、長続きしなければ嬉しくないはずです。

金銭的な支援がすべて悪いというわけではなく、一部の層は金銭的支援を求めていて効果があると考えられます。また別に必要なくてもあるなら使おうという人はいます。しかし移住促進政策は、金銭的補助よりも、さらに効果的なアプローチ(生活の質の向上や定住につながるもの)を今後は積極的に展開していく必要があるでしょう。金銭的補助に期待しすぎてはいけません。

KAYAKURAでは地方移住に関する講座や勉強会の講師・WSのファシリテーション、執筆、調査、関連した地域活性化・地方創生・観光インバウンドなど関連事業のサポート/コーディネートを行っております。お困りの方はお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

参考資料
日本経済新聞, 「テレワークで地方移住、最大100万円補助 政府21年度から」.
・片田敏孝, 浅田純作, 「混住化社会における住民の住み良さ感の構成に関する研究」.
・一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN), 「若者の移住調査 結果レポート」.

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この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.