【連載】SDGs×地方創生を問う-第2回 SDGs+地方創生がかかえる課題-

SDGs+地方創生がかかえる4つの課題

2030年までの達成に向けて国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。国や企業、個人にゴール達成に向けたアクションが求められるのと同じく、SDGsでは地域/自治体が達成に向けて取り組みを行うことが求められている。

日本政府は地方創生の流れのなかで、自治体がSDGsに積極的に取り組むことを推進している。国連が定めたSDGsと日本政府が行う地方創生。一見すると別物にみえるが、実はSDGsと地方創生は密接に関係していると内閣府地方創生推進事務局 遠藤氏やその他政府関係者は語る。

本連載では、全5回を通して「SDGs×地方創生」の基礎的な考え方、可能性、課題、実際に行われる取り組みなどを取り上げていく。あらかじめ筆者の立ち位置を明確にしておくと、筆者はSDGs推進論者でも、SDGs否定論者でもない。SDGsのよいところは積極的に地域に生かし、SDGsがかかえる問題点は早急に改めていくべきという立場である。

第2回の今回は、「SDGs+地方創生がかかえる課題」と題し、SDGsと地方創生をつなげて考え行動する中で起こりつつある課題や問題点を整理していく。

1つ目の課題は「後付けマッピングのみで満足する自治体」2つ目の課題は「地域で起こるSDGsウォッシュ」3つ目の課題は「事業の持続性なきSDGs関連事業」4つ目の課題は「広まらない認知」である。

「そもそもSDGsってなに?」という方は、こちらの記事もあわせてご覧いただきたい。

課題Ⅰ 後付けマッピングだけでは本質的課題解決にはならない

1つ目の課題は「後付けマッピングのみで満足する自治体」である。後付けマッピングとは自治体がいま行っている取り組みをSDGsに紐づけることを指す。この作業は現状、SDGsに取り組むほとんどの自治体や企業で実施されている。

自治体の場合現状多いのは、地方創生開始後に自治体が策定することを求められた総合戦略にSDGsを後付けマッピングするケースである。自治体としてはSDGsに取り組んでいることをアピールしたいため、新計画を策定する際やすでに策定された総合計画の期が変わる際に後付けマッピングするケースが目立つ。

後付けマッピング自体は悪いことではない。しかし問題なのは既存の政策の中身を変えずにマッピングだけして満足している、もしくは「SDGsに取り組んでいることにしている」ケースである。

後付けマッピングを行った自治体は、次のステップとしてこれからの取り組みをSDGsに留意して計画する作業、すなわち「先付けマッピング」を行っていくべできある。先付けマッピングの作業は、自治体としてこれから取り組むべき課題の発掘や、発掘された課題の解決方法を具体的に探ることを意味する。

先付けマッピングまで行って初めて、自身の固有の条件や既存の政策を踏まえて、ゴール、ターゲット群を自身の政策課題に翻訳しSDGsを導入したといえるレベルに達する。逆に言えばここまで本質的に政策に結びつくようにマッピングしなければ、後付けマッピングには意味が無い。

課題Ⅱ SDGsウォッシュが地域でも起こっている

2つ目の課題は「地域で起こるSDGsウォッシュ」である。SDGsウォッシュとは、SDGsに取り組んでいるようにみえて、実態が伴っていない企業や法人を揶揄する言葉である。

課題Ⅰとつなげて考えると、例えば後付けマッピングを行ったのちに先付けマッピングする機会があったにも関わらず、それを行わずに「政策実態は伴っていないが、SDGsに取り組んでいると宣言だけはする」ような状態は悪質なものはSDGsウォッシュである。

他にはSDGsバッジを付けている自治体の職員や議員が、SDGsの理念に反するような政策を積極的に推進したり、SDGsの観点を踏まえずに過度な開発を行っている事例はSDGsウォッシュであるといえる。

SDGsは世界中の人々に目標達成のために取り組んでもらえるように、入り口のハードルはとても低くしてある。そのためロゴやバッジなどは広く普及してきている。しかし広く普及し始めているからこそ、掲げているだけで実態が伴っていない、もしくはSDGsの理念に反するような政策が推し進められている自治体もある。

課題Ⅲ 事業の持続性なきSDGs関連事業

3つ目の課題は「事業の持続性なきSDGs事業」である。木下氏によれば、地域を経営して自ら稼ぐという認識が乏しい自治体の中には、住民から出た課題が財源不足で解決できない状況や、補助金の期限切れで事業が継続できないケースが多く見受けられる。

自治体は事業の継続性や持続性、自立性/自律性に向き合わなければいけない時期に来ている。だからこそ地方創生はSDGsと積極的に連動させていくことが求められている。自治体のみでは難しい稼ぐ姿勢を身につけるために、第1回で取り上げたようなパートナーシップの形成が必要なのである。

しかしSDGs事業自体に持続性が無い事例がここにきて顕在化してきている。例えば「いままでやっていた事業の補助金が切れるからSDGsに置き換えれば違う補助金が使える」「SDGsに置き換えることで予算が通りやすくなるから表現を変えよう」といった表面的なSDGs事業化がそれである。

もし地方創生関連事業でSDGsを掲げるのであれば、SDGs事業そのものの持続可能性-経済的・社会的・環境的-に正面から向き合わなければならない。SDGsに積極的に取り組んでいるとアピールする自治体が財政的に不安定であっては、事業の持続可能性が担保されていなければ説得力は無く元も子もないのである。

課題Ⅳ 広まらない認知

4つ目の課題は「広まらないSDGsの認知」である。SDGs総研のアンケート調査によれば。SDGsにすでに取り組んでいる自治体は全体34%となっている。また取り組み準備中の自治体は全体の44%、取り組まない自治体が16%、SDGsを知らないと答えた自治体が6%となっている。

このように自治体(行政)単位でのSDGsの認知度は着実に高まっており、取り組んでいる自治体も増えていることがわかる。しかし問題は、同アンケート調査の結果でSDGsに取り組むうえでの課題として最も多い回答が「住民や職員らの認知度が高まっていない」ことである。

自治体職員についてはSDGsを担当する、もしくは積極的に行う一部職員を除くと多くの職員は未だにSDGsの中身について知らないと考えられる。住民の認知度が低いことについては、これは自治体の問題であるだけでなく世界的な課題でもある。

第1回でも触れたようにSDGsは多様なアクターがパートナーシップを形成し協働で取り組むことで初めて達成できるゴールばかりである。つまりいくら自治体の取り組みとして後付けマッピングの実施やSDGsモデル事業の選定が進んでいても、住民や職員が置いてけぼりでは機運を醸成できない。

では一体、どうすれば職員や住民の認知度を高めることができるのか?地域をよりよくしたいと思う住民は一体、SDGsに取り組むためにまずは何をすればいいのか?確固たる正解は無いが、これらの問いについては最終回の第5回で筆者なりの答えを提示する予定である。

最後に-SDGsは武器にもなるが、アヘンにもなる-

本記事では4つの角度からSDGs×地方創生の課題をみてきた。高木氏が述べるように、残念ながらSDGsは何でも叶えてくれる「魔法の杖」ではない。また政策に掲げたからといって既存の課題解決が一挙に進むというものでもない。

斎藤氏によるより厳しい指摘を引用すれば、SDGsに取り組んでいるという事実が免罪符となり、地球の気候変動や喫緊の課題を本質的に解決する取り組みが遅れる可能性もある。「SDGsは大衆のアヘンである」斎藤氏はそう指摘する。

では一体、自治体がSDGsを活用することの意味がどこにあるのか。再度、高木氏の言葉を引用すればSDGsを活用することによって「このような地域/自治体にしたい」という未来の自治体像を描くためのヒントや、鍵となる示唆を得ることができる。

正しい使い方をすればSDGsはとても強力な武器となるが、本記事で取り上げたような課題を乗り越えられなければそれは地域/自治体にとってアヘンとなり免罪符となってしまう。

次回第3回はSDGs17の目標が具体的に地域のどのような事象と関係してくるのかを整理していく。

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参考文献
斎藤幸平, 2020, 『人新世の「資本論」』集英社.
・事業構想大学院大学出版部, 2020, 『SDGs経営 持続可能な地域社会』.
・高木超, 2020, 『SDGs×自治体 実践ガイドブック』学芸出版社.
・村上周三他, 2019, 『SDGsの実践 自治体・地域活性化編』事業構想大学院大学出版部.
・山口幹幸他, 2020, 『SDGsを実現するまちづくり』プログレス.

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この記事を書いた人

KAYAKURA 編集部

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