講談社から2021年4月23日に発売されたマンガ『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』は、田舎暮らしを”リアルにおもしろく”描いた作品でありながら、”移住を考える人の役に立つ”学び多い作品でもある。
原作者のクマガエ氏は2009年~2015年に講談社で勤務していたが、担当雑誌の休刊と多忙な都会暮らしに心が折れて2016年5月に千葉県へと夫婦で移住した。
移住当初は、古民家で暮らし近くの田畑で農業を行っていたが、現在は千葉県内の住宅地に居を移し、フリーランスの編集者として働きながら農業を行うライフスタイル「半農半X」を実践している(詳細な移住の経緯は、ぜひマンガを読んでいただきたい)。
前編後編にわけてクマガエ氏へのインタビューの模様を掲載するが、後編では田舎での人とのつながりや、読者・知人からの作品への反応、移住を考えている方へのアドバイス、作品の注目ポイントなどをお聞きした。前編はこちらから
漫画原作者。▶︎東京から「都会と田舎のはざま」に移住。▶︎ 半農半Xをベースに、自然栽培の田畑のお世話、フリー編集者、原作者の3刀流使い。▶︎自分が食べる米を自分で作れたら、人生はだいたい大丈夫。▶︎実体験を基に『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』講▶談社イブニングで連載中▶Twitter
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田舎の人間関係-キーワードがあるとつながりやすい–
──田舎暮らしのリアルをもう少し掘り下げてみたいと思います。ある調査によると、地方への移住を妨げている要因として、約4人に1人が「田舎の人間関係が不安」と答えています。この点について、クマガエさんは実際に暮らしてみていかがですか?
クマガエ 最初に住んだ地域はコミットする間もなく出てしまいましたが、移住して定住した知り合いの話を聞くと、場所によるし人にもよると強く感じます。あいさつしても全然返してくれない人もいれば、同じ地域の中で気にかけてくれる人もいます、例えば薪を持ってきてくれたり。
田舎の人=○○とは一概には言えないので、イメージで刷り込まれている部分は結構あると思います。ただ、子どもがいる知り合いは、子連れは溶け込みやすくていいよとよく言っています。子連れ世代には優しい傾向があるかもしれません。
僕の場合は、一時やっていたオーガニックカフェの仕事を通して、地域に顔が広い方々とのつながりができて知り合いが増えました。「オーガニック」「農的暮らし」「子ども」など、ひとつキーワードがあるとつながりやすいのかもしれませんね。
読者からの感想で気が付いたこと-田舎感は人それぞれ–
──作品を発表してみて、読者や周囲の方々からの反応はいかがでしたか?
クマガエ 4月下旬に単行本を発売し、初めて明確な反応が返ってきた気がしています。本当にいろいろな意見が届いていて、素直に受け止めてくれたり共感してくれたりする人がいれば、中には「外房は田舎じゃない」「これは田舎暮らしじゃないだろ」という冷笑のコメントもあります。
改めて、「田舎感は人それぞれだよな」と感じていますね。例えば、古民家暮らしだけでハードだと思う人もいれば、全然ハードだと思わない人もいる。外房が田舎だと思う人もいれば、田舎だと思わない人もいる。
田舎暮らしや地方移住とはグラデーションがある世界だということが、改めて可視化することができました。そこに一石を投じられたという意味で、反論もポジティブに受け止めています。
周りに住んでいる先輩移住者からは「これは俺の物語だ!」という反応がありました。移住して何年も経つ人からは「移住当時のキラキラした感じを思い出した」という感想ももらいました。あとは「新しい生き方を教えてもらいました」という感想もいただきました。
田舎暮らしにはグラデーションがあって選べる
──クマガエさん自身は、田舎暮らしを始めてから約5年が経ちますよね。マンガを読んだ方の中には「これから移住したい!」「移住に興味がある!」という方もいると思います。もし先輩移住者として、そういった方々にアドバイスするとすれば、どんな言葉をかけますか?
クマガエ 一番は「田舎暮らしなんて選べない」と思っている人が結構多いと思います。現に、僕もそうでした。田舎暮らしはガチしかいないとか、お米をつくるのには特別な技術がいるんじゃないかとか、農業は修業が必要なんじゃないかとか。
田舎暮らしをして田畑で食べ物を育てる=農家になるというイメージは、いまだに強いですよね。僕の場合はお米も野菜もあくまで自給用だから農家ではないんですが、よく聞かれました。「農家になるんでしょ?」って。そういう方には、ぜひ田舎暮らしや地方移住の中にはグラデーションがあって選べることを知ってほしいなと思います。
米作りでも最初は小さく借りるという方法もあります。千葉県の田舎なら、都内まで電車で1時間もあれば通える場所もあるので、仕事を変えないという選択肢もあります。どうしても極端なイメージばかりが目立ちますが、もっとカスタマイズできるんだとマンガで知ってもらえたら嬉しいです。
移住前に「何がやりたいか」を明確にする
──「田舎暮らしにはグラデーションがある」、良い言葉ですね。注目を集めやすいのは地域に貢献する若年移住者などですが、移住したから地域に関わらないといけないわけではありません。田舎でできる仕事の幅は近年広がっていましたが、新型コロナウイルスの流行でさらにワークスタイルの幅は広がりました。
そういった意味では、田舎暮らしの選択肢にグラデーションがあることが、人によっては選択肢が多すぎてどうしよう!状態を引き起こすこともあります。クマガエさんは、こうした移住希望者の方にどんなアドバイスをされますか?
クマガエ 移住前に「何がやりたいか」を明確にしておいたほうがいいと思います。「これだけは譲れない!」という部分があるとか。僕は、仕事に関しては強いこだわりがありました。移住したはいいけど仕事が無くてコンビニバイトとかは本末転倒だなと。これはコンビニバイトがいけないという話ではなくて、どういう暮らしがしたいのかの問題だと思います。
「何がやりたいか」「これだけは譲れない!」がなんとなくでも定まっていれば、移住先や仕事、住まいを選ぶ基準も明確になります。僕らは当初、古民家に住みましたが途中で諦めて、きれいな家に移りました。
それは僕らの中で住まいは古民家がいいというこだわりは無かったからです。それよりも農的な暮らしがしたい、お米が作りたいという思いが強かったので、田んぼや畑との距離感を最重要視して通えるエリア内で住みやすい家を探しました。
お金に関しても、あたりを付けておくのは重要です。各種研修制度もありますが、いきなりの起業や独立はハードルが高いですよね。お金が全てではないですが、お金は安心を与えてくれます。
暮らしてみないと分からないこともありますが、やりたいことをハッキリさせたうえでバランスよく折り合いをつけながら歩を進めていけばいいと思います。
最後に-異世界感あふれる美しい構図にも注目–
──最後に、これだけは伝えておきたい!ということがあれば教えてください。
クマガエ 『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』は、僕が原作を書き、作画は宮澤ひしを先生に描いていただいています。担当編集さんが宮澤さんを推薦してくれたのですが、最初に画を見た瞬間に一緒にやりたい!と思いました。
宮澤先生はオリジナルのマンガも書いていますが、結構エッジが効いている方で、本作品にも魅力的な構図がたくさん詰まっています。ぜひ宮澤先生の作画と構図を通して、異世界を感じていただけたら嬉しいです。