政府が7月22日からGo To キャンペーンの一環として開始する予定の「Go To Travelキャンペーン」ですが、東京都の新型コロナウイルス感染省の新規感染者数は連日100人を超えています。
100人超えという数字の量と質をどう判断するかは専門化によっても個人によっても異なりますが、Twitterでは「#GoToキャンペーンを中止してください」がトレンド入りしており、一部地方自治体の首長も懸念を表明する事態となっています。
一方でいつまでも「旅行は悪」というイメージが広まり続ける事態に、観光従事者や関連産業従事者—飲食店やお土産店・宿泊業界・メンテナンス業者なども含まれる—からは「もうこれ以上は耐えられない」という悲鳴の声も聞こえてきています。
そこで本記事ではGo To キャンペーンの問題点を多面的に検証してきます。各アクターによって問題点の捉え方は異なりますが、単純な批判になることを避け「一方でGo To キャンペーンを実施しないと、こんなデメリットもある」ということも示していきます。Go To キャンペーンの在り方、コロナと経済のバランスの在り方を考える1つの材料にしてもらえれば幸いです。
1 Go To キャンペーンによる感染拡大への懸念
1つ目のGo To キャンペーンのデメリットと考えられるものは「Go To キャンペーンによる感染拡大への懸念」です。Twitter上でもこれを理由に中止を求める人が最も多い印象です。
青森県むつ市宮下宗一郎市長は7月13日に記者会見で、キャンペーンで新規感染者が多い地域から観光客が来ることに危機感を示しました。「キャンペーンによって感染が拡大すれば、人災だということになる」「命があって健康であれば、経済を回す方法はいくらでもある」「国や県がどういうキャンペーンをやろうが、むつ市は市民を守る責務がある」と表明し、場合によっては自主的にむつ市内の観光関連施設を閉鎖する考えです。
宮下市長以外に、山形県の吉村美栄子知事、宮城県の村井嘉浩知事、福島県の内堀雅雄知事らも感染拡大への懸念を表明。主に感染者数の少ない地方自治体から懸念が示されています。
2 医療従事者への支援に予算をまわすべきという批判
新型コロナウイルスの感染リスクを引き受けながら、最もコロナ発生以降その身を削ってきた職業の一つである医療機関にGo To キャンペーンの予算をまわすべきという声が2つ目の批判です。
日本医療労働組合連合会の調査で、看護師などの今年の夏のボーナスを去年よりも引き下げた医療機関が、およそ3割に上ることが7月13日わかりました。労働組合は、「新型コロナウイルスに感染する危険を感じながら使命感で働いている医療従事者の退職が増えるおそれがある」と指摘しています。
使命感をもって頑張って働いているにも関わらず厳しい状況にある医療機関は多いため、経営難が続けば冬にさらに多くの医療機関でボーナスが引き下げられることも考えられます。また退職者の増加も懸念されます。報道が出たのがGo To キャンペーンへの懸念が高まりだした時期と重なったため、「観光関連産業」よりも「医療業界への支援を」という声がTwitter上で広がっています。
一方、この点については多面的に状況を捉える必要があります。厚生労働省の平成30年版厚生労働白書によると医師・看護師・准看護師の合計人数は約1,862,000人です。対して観光関連産業に関連する宿泊業・飲食サービス業に従事する人の数は約5,760,000人います。つまり人数だけをみて考えると、観光関連産業に予算をつけたほうが多くの人の苦境が改善されるといえるでしょう。
この観点からのTwitter上の批判の中には「観光産業」=娯楽と断定し、「医療」のほうが「社会的に意義のある仕事」だから医療に予算をまわせと言う声が聴かれます。しかし現在苦しい状況にあるのは医療従事者だけではなく、地方の特に観光業が主力の地域では悲痛の叫びが聞こえてきています。そこでは「どちらの職業のほうが上or下」ということはできず、観光客が増えることで命が救われる人々がいることが事実としてあります。
この点を一面的にしかとらえない想像力に欠けた批判は問題ではないでしょうか。不確定性が高くリスクの高い現代社会においては、いつ自分たちが従事する産業も現在の観光産業のような状態になるかわかりません。「自分がその立場になったらどうか」という想像力を常に絶やすことなく社会や制度の在り方をみていくことが重要です。
3 政府の体制と寄り添う姿勢がみられないことへの批判
3つ目の批判として安倍政権/政府の体制や国民の不安を理解せず寄り添う姿勢がみえないことへの批判があります。批判の中には「票田がそこにあるからゴリ押しするんだね」「国民と政府の意識がかけ離れ過ぎていて。お魚券お肉券とかアベノマスクとか」といった声もあり、安倍政権への不信感が強まった人や安倍政権に否定的だった人たちがさらなる攻撃材料として用いている様子がうかがえます。
赤羽国土交通大臣が、参加する宿泊事業者などに感染対策の実施を義務づけることとし、感染拡大の防止を徹底しながら、観光振興を図りたい考えを示したことにも批判があがっています。「自粛」という言葉に代表されるようにどこまでも「感染対策の実施を一般市民や事業者に押し付け責任を逃れようとする政府の姿勢」に対し、これまでは一定の理解を示していた人も今回に関しては見逃すことができないといった声が散見されます。理由はもしGo To キャンペーンで感染者が増えても「宿泊業者などが感染対策の義務を怠ったから・もしくは不十分だったから」となり、政府のGo To キャンペーン実施判断そのものには批判が向かない構図になるからです。
4 災害復興に予算をまわすべきという批判
7月に入ってからの大雨で九州、長野、岐阜などで災害が多発している状況を受けて「Go To キャンペーンの予算を災害復興にまわすべき」という批判が高まっています。
一方で災害で大きな打撃を受けた岐阜県下呂や長野県全域では「観光客に来てほしい」という声も聞かれます。筆者が取材をする長野県善光寺周辺では「昨年の台風19号、冬シーズンの雪不足、そしてコロナで本当に客足が減っていて苦しい。今回の大雨でまた風評以外が高まって観光客が減ったら今度こそ生活が成り立たない」という声も聞かれました。
まとめ-GoToキャンペーンを中止すればすべて解決するわけではない
以上4つの側面からGo To キャンペーンに対する批判の理由と実態を検証してきました。2と4で書いたように、もしGo To キャンペーンの予算をすべて削って他に回したとしたら、それで救われる命もあれば一方でより厳しい状態に陥る人たちもいます。限られた予算の中で「どの産業にお金をまわすか」はとても厳しい選択です。こういうときこそ「強いリーダーシップを発揮してほしい」と考える人たちにとっては、現政権の姿勢はあまり頼りがいが無く現実離れしているようにみえるかもしれません。
大切なのはSNSも含めさまざまな場面での議論をやめないことです。安直な批判に留まるのではなく他者への想像力を高め問題を多面的に理解したうえで議論することで、社会全体がより良い方向に向かうことができます。引き続きGo To キャンペーンへのさまざまな声に耳を傾け、ぜひ皆さんも自分なりの見解をさまざまな方法で表明してみてください。
参考資料
・河北新聞, 「GoToキャンペーン」間近 宮城、福島両県知事が警戒感
・NHK, 医療機関の3割で夏のボーナス引き下げ 退職者増えるおそれも
・厚生労働省, 平成30年版厚生労働白書
・総務省統計局, 2018年サービス産業動向調査
・J-CASTニュース, 「#GoToキャンペーンを中止してください」 ツイートから見る「批判の矛先」