【書評】『観光ブランドの教科書』は「量の観光」から「質の観光」への転換期の必読書

2019年11月に発売された新刊 岩崎邦彦著『地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書』は、地域×観光という既存の公式に「ブランド」を掛け算することの大切さを説明した本である。2003年の観光立国宣言以降、日本政府をはじめ都道府県や自治体の観光関係者は観光客の「量」を増やすことばかりに着目してきた。

「量」を増やすことばかりに注力してきた結果、オーバーツーリズムや観光公害といった問題が表出し始めている。これからの時代は地域ごとに観光ブランドを確立しリピーターを増やしたり1度あたりの満足度を高める「質」の観光への転換が必要だと本書は説いている。

本記事は、2020年以降新しい「地域×観光」の教科書になること間違いない『観光ブランドの教科書』を分かりやすくまとめた内容となっている。

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観光は観光業だけにとどまらない地域全体のテーマ

初めに押さえるべきは「観光は観光業だけにとどまらない産業である」ということ。観光はあくまでツールであり目的を達成する手段である。多くの自治体が掲げる目標は「観光によって収入を増やそう!」「観光によって地域を元気に使用」といったものだが、これらの目標は当然ながら観光産業だけでは達成できない。

観光客が来る=地域に人を引き付ける力がある状態と定義したうえで、筆者は「地域引力」が重要だという。地域引力は地域資源の掛け算で生まれるため、商業や農業、交通インフラや各種サービス業などすべてが地域引力に含まれる。地域産業の連携が観光ブランドの創出には不可欠なのだ。

近年、日本版DMOというカタチで官民が協働で地域の観光をよりよいものする動きがあるが、多くの自治体では「観光は観光産業従事者だけで考えるものではない」という視点が抜けている。より多角的に観光を捉え、地域が一丸となって観光に取り組むことが重要である。

消費者が観光に求めているのは「商品」ではなく「価値」

地域引力を生み出し観光客を惹きつけるためには、「なぜ観光に来るのか」を考えることが大切としたうえで筆者は本書の前半で次のようにいう。

消費者が求めているのは「観光サービスという”商品”」ではなく、「観光が、自分にもたらす”価値”」

観光ブランドの教科書 p,28

AppleのiPhoneが世界中にインパクトを与え新しい時代をつくったのは、iPhoneという商品そのものの素晴らしさもさることながら、iPhoneによってAppleが新しい価値を世界中の人々に届けたからである。

観光サービスも同じである。大切なのは「商品」ではなく「なぜ、その地域に行きたくなるのか」「その地域に行くと、何を得られるのか」という根幹の部分。

極論を言えば、地域が訪れる人に届けたい価値を的確に届けられるのであれば、手段は観光でなくてもいいのである。観光という商品によってしか届けられない価値は何かを考え続けることが、これからの時代は求められる。

明確なイメージが浮かばない地域にブランドはない

「広大な大地」と聞いて、あなたはどの都道府県を思い浮かべるだろうか。

「歴史的な街並み」と聞いて、あなたはどの都道府県を思い浮かべるだろうか。

「メガネの町」と聞いて、あなたはどの市町村を思い浮かべるだろうか。

「いろんな魅力がある」と聞いて、あなたはどの都道府県もしくは市町村を思い浮かべるだろうか。

観光ブランドとは一言で言えば「明確なイメージ」「○○らしさ」である。4つ目の問いかけのように「この街には、いろんな魅力があるから来てください!」と発信しても消費者は動かない。なぜなら明確なイメージが浮かばないからどこに行けばいいのか分からないのである。

では、どうすれば○○らしさを確立できるのか。これは経営学において長らく議論されてきたテーマだが大切だと言い切れるのは「競争相手が少ないところで勝負せよ」「差別化」「強みを尖らせる」この3つである。今さら弱点を補っても普通にしかなれない。だったら、いっそのこと一点を徹底的に伸ばそうじゃないか。

「量の観光」から「質の観光へ」

これまでの日本の観光は「1人10,000円使う観光客を100人呼んで1年間で1,000,000円稼ごう」という手法が主だった。しかし、これからのグローバルな競争の時代は従来のような量で稼ぐ手法は通用しなくなる。思考を「1,000,000円使う観光客を1年で1人呼ぼう」もしくは「1回に100,000円使ってくれる観光客に年間10回来てもらおう」に転換しよう。

量の観光は第一に地域住民を疲弊させるうえに、異なる100人を毎年受け入れるとリスクが高い。対して1,000,000円使う観光客を1人呼ぶ作戦は1度の負担は大きいかもしれないが疲弊の度合いは明らかに減るだろう。しかし、ここでおすすめしたいのは「1回に100,000円使ってくれる観光客に年間10回来てもらおう」 のほうである。

簡単に言えば「リピーター」=「ファン」をつくるということ。ファンは、こちらから大声で「来てください!」と叫ばなくても来てくれるし、地域が好きで来てくれるので余計なリスクを考える必要もない。何より地域住民は疲弊せずに対応できる可能性が高い。ファンを1人でも増やすためにも、ふわっとした地域イメージではなく刺さる人に刺さる尖った観光ブランディングをしよう。

まとめ-結局大切なのは、観光客視点を持っているかどうか-

『観光ブランドの教科書』が終始強調しているのは「提供者側の視点ではなく観光客側の視点を持つことが大切」ということ。「~してほしい!」では人は動かない。いかに「~したくなる」をつくるかがポイントであり、観光客のwant toを生み出すために観光ブランドは必要になる。

人はそんなに多くの情報を処理することができない。「うちの町には、○○も△△も□□も××もあるので魅力的です!」とアピールされても1つも残らないことも多いばかりか、せっかくの特徴が薄まってしまうこともある。勇気をもって引き算を行い、軸となる観光ブランドを確立しよう。

ここで忘れてはいけないのは、あくまで観光ブランドは観光客に動いてもらう1つのファクターに過ぎないということ。筆者はあまりこの点に触れていないが、行った先の地域で押し出している以上の魅力に巡り合えたら満足度は当然高まる。来てもらった先で様々な楽しみ方をしてもらう分には問題はないのだ。大切なのは「見せ方」「伝え方」である。

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この記事を書いた人

Masato ito

長野県出身、日本学術振興会特別研究員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、一橋大学社会学研究科所属。専門は社会学、政策学。2017年・2021年に創設に関わった2つのまちづくり事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。後者は同年公民館アワードも受賞。現在は地方移住やまちづくり、地域政策に関する研究を行う傍ら、関連する分野のコンサルティングやアドバイザー、講師講演執筆などを行っている。毎日新聞、AERA、Oggi、Abema Prime Newsなど寄稿出演多数。