数多くの映画やドラマに出演し活躍している俳優の伊勢谷友介さんが東京都内の自宅で大麻を所持したとして警視庁に9月9日大麻で逮捕されました。警視庁によると、8日午後4時半すぎ、東京・目黒区の自宅で乾燥大麻を所持したとして、大麻取締法違反の疑いが持たれています。
筆者は数年前に長野県を中心に複数の自治体で合計22人が大麻取締法違反容疑で逮捕された際に、普段の社会調査や地域活動のフィールドに近く逮捕された方の中には薄い知り合いも数人いたためさまざまな報道や事後の調査に関わった経験があります。その際に、薬物報道に関することについてさまざまな疑問をもち知見を得ました。
今回の件も含めて芸能人が大麻で逮捕された際には「大麻とは」「大麻で逮捕とはどういうことか」などを客観的に報じるものは少ないように感じます。特に本人の交友関係や家族、入手ルートなど個人情報に関する情報が多く、なかには依存症へ偏見や誤解を助長したり、違法薬物への興味を煽ってしまったりと、薬物問題の改善に逆効果なものもあります。
そこで本記事では芸能人が大麻などの薬物で逮捕された際に根本的に気になる基本的な情報についてまとめていきます。また最後にはTBSラジオ「Session-22」でつくられた「薬物報道ガイドライン」を引用掲載し、伊勢谷友介さん含め今後の芸能人の薬物報道の際に皆さんがより正しく報道を判断することに繋がっていけばと思います。
大麻とは
厚生労働省によると大麻とは「大麻草(カンナビス・サティバ・エル)、 及びその 製品」のことをいいます。ただし「大麻草の成熟した茎、及びその茎から作られる繊維等の製品(樹脂を除きます)と、大麻草の種子及びその製品」は規制の対象から除かれます。
大麻(アサ)は、その茎から丈夫な繊維がとれるので、昔から日本に限らず世界中で繊維をとる植物として栽培・利用されてきました。しかし現在、日本では無許可の栽培や所持等は法律で禁止されています。
「大麻で逮捕」とは何を指すのか
日本で「大麻逮捕」と報道された場合、それは昭和23年7月10日 芦田内閣のときに公布された大麻取締法に基づくものです。大麻取締法の第三条で「大麻取扱者でなければ大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用してはならない。」と定められているため、主にこれに違反した場合に大麻逮捕という報道になるのです。これ以外にも細かい決まりごとはあるので、より詳細を知りたい方はこちらのページをご覧ください。
たとえば大麻取締法は、上記でみたように大麻草全体を規制の対象にはしていません。理由は大麻草全体に有害な物質が含まれるわけではなく大麻草の花や葉っぱの樹液に多く含まれるTHC(テトラヒドロカンナビノール)という成分が有害作用を生じさせるからです。
日本では伝統的に麻織物に使われたり、種子が七味唐辛子に使われたりしています。そこで用いられる成熟した茎や種子にはTHCはほとんど含まれません。なので「大麻草の成熟した茎、及びその茎から作られる繊維等の製品(樹脂を除きます)と、大麻草の種子及びその製品」は規制の対象から外れるのです。
大麻栽培は合法なのか違法なのか・大麻取締法違反とは
大麻取締法の第三条で「大麻取扱者でなければ大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用してはならない。」と定められているため、一般人がこれらをやると違法となります。
しかし大麻取締法の第二条で定められた「大麻取扱者」であれば国内で大麻を取り扱うことができます。この大麻取扱者は「大麻栽培者」と「大麻研究者」の2つにわけられます。
「大麻栽培者」とは、都道府県知事の免許を受けて、繊維若しくは種子を採取する目的で、大麻草を栽培する人を指します。また「大麻研究者」とは、都道府県知事の免許を受けて、大麻を研究する目的で大麻草を栽培し、又は大麻を使用する人を指します。よって法律に沿って「大麻取扱者」になった人の場合は、日本国内で大麻を取り扱うことができます。
つまり大麻取扱者以外が国内で大麻を栽培すると違法ですが、大麻取扱者であれば合法的に大麻を取り扱えるということです。
大麻の使用は違法なのか
大麻取締法第三条には「大麻取扱者でなければ大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用してはならない。」と書かれており、「大麻の使用」については何も書かれていません。
この理由は大麻の茎や種子にもTHCが微量に含まれていることがあることにあります。麻製品や七味唐辛子などを通して体内に入った場合に、尿検査で大麻成分(THC)が検出されることが”絶対ない”とは言えません。また検査で陽性だったとしてもそれが”何を理由に検出されたのか”を特定することはできません。よって大麻の使用は処罰の範囲を明確にすることができないため不処罰となっているのです。
最後に-大麻で芸能人が逮捕された際のガイドライン「薬物報道ガイドライン」の存在-
芸能人や有名人の薬物報道の中には、依存症への偏見や誤解を助長したり、違法薬物への興味関心を煽ってしまったりと、薬物問題の改善とは逆の効果をもたらしてしまうものが少なくありません。そこでTBSラジオSession-22では、パーソナリティ荻上チキさんの案をもとに専門家や当事者らと一緒に「薬物報道ガイドライン」を作成しています。
メディアでの薬物報道をみたとき、この薬物報道ガイドラインにそってその在り方を検証してみることで、薬物について客観的に情報を得ることができたり、誤解することを防ぐこともできます。またもしあまりにもひどい報道であればより薬物報道ガイドラインに沿った媒体やチャンネルを選択する指標にもなります。ぜひ参考にしてみてください。
薬物報道で【望ましいこと】
- 薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること
- 依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること
- 相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること
- 友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること
- 「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと
- 薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること
- 依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること
- 依存症の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること
薬物報道で【避けるべきこと】
- 「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと
- 薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと
- 「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと
- 薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと
- 逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと
- 「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと
- ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと
- 「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと
- 家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと
参考資料
・厚生労働省HP
・大麻・けしの見分け方:厚生労働省
・大麻取締法
・大麻取締法について「所持」は違法なのに「使用」はなぜ処罰されないのか
・【音声配信・書き起こし】「薬物報道ガイドラインを作ろう」荻上チキ×松本俊彦×上岡陽江×田中紀子▼2017年1月17日(火)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」平日22時~)