大分県と大分サステナブル・ガストロノミー推進協議会の主催する、由布院と臼杵市で大分サスティナブル・ガストロノミーを体験するメディアツアーに参加してきました!
訪れたのは日本有数の温泉地である由布院と、国内2例目のユネスコ「食文化創造都市」に認定された臼杵(うすき)市。
本記事ではツアーの中から印象に残った体験を中心にレポートします。キーワードは「サスティナブル」と「食(ガストロノミー)」です。
大分サスティナブルガストロノミーとは?
サスティナブル・ガストロノミーとは、食材の産地や栽培方法、市場、それが食卓に届くまでの各段階で、サスティナビリティ(持続可能性)を意識した食・食文化を指します。
2010年代後半以降、サスティナブル・ガストロノミーへの関心は、世界的に高まっています。例えば2016年12月に国連総会が6月18日を「Sustainable Gastoronomy Day」に制定しました。また、京都大学は2022年にサスティナブル・ガストロノミー起業塾を開講するなど日本でもその動向は活発になりつつあります。
「ガストロノミー」という言葉は、狭義には美食などを意味しますが、広義には、食をめぐる社会的・文化的価値の発見や洗練を意味するフランス語です。大分県では県独自の食を取り巻く文化や歴史・環境を守りながら、時代に合わせてアップデートしていくことで、未来の食卓も豊かであり続けることを目指しており、こうした一連の取組を「大分サスティナブル・ガストロノミー」という言葉で表現しています。
由布院「江藤農園」で“地消地産”の仕組みを学ぶ
由布院温泉の源となる由布岳を真正面に望む、江藤農園さんを訪れました。土づくりからこだわり、落ち葉、竹堆肥、もみ殻燻炭などこだわりの肥料を厳選しています。野菜の切れ端や食べられない葉を利用することで、土も循環させる仕組みづくりにも挑戦されているそう。
湯布院町内で代々農業を営む江藤農園の江藤さんご夫妻にお話をうかがいました。30年ほど前から周辺の観光事業者と農観連携をはじめ、地産地消ならぬ“地消地産”に取り組んでいるとのこと。板場さんからその日に欲しい野菜を注文してもらい、必要な分だけを収穫することでフードロスの削減に成功しています。
それでも余った野菜は、10年ほど前からはじめた「由布院マルシェ」で一般の方々向けに販売。農業と観光業の連携は一筋縄ではいかない難しさがあったものの、少しずつ身を結んできている実感があるとのこと。
こうしたフードロスを削減する取り組みや、土を循環させる仕組みづくりは、まさにサスティナブルの食文化を実現するための実践だと言えます。現在、日本の食品廃棄物等は年間2,759万tにのぼります。必要な分だけ収穫し余った野菜はマルシェで販売、切れ端や食べられないものは土に返すといったサーキュラー・エコノミーの取り組みは他地域の食文化を生かした観光の参考にもなるでしょう。
循環する食文化は「箸」にも
お次に訪れたのは、由布院で箸の手作り体験ができる箸屋 一膳さん。
職人が一膳ずつ手作りしたお箸を購入することもできます。さくらや梅、かしやかえでなどの木を4年以上じっくり乾燥させてお箸用に加工するのだそう。木材は地元の廃材を使っており、ここにもサスティナブルの精神が垣間見えます。
箸の長さも手の大きさに合わせて。指を広げた長さの1.5倍がジャストサイズなのだそう。今回は削りやすい「さくらの木」でつくることになりました。
刃物とヤスリの使い方を教えていただき、いざ体験スタートです!
わたしは見本を見ながら八角段削り箸に挑戦。
左右、前後のバランスを見ながら同じサイズに削っていくのがとても難しく、一膳ずつ手作りしている「箸屋 一膳」さんの手間と技術力を改めて感じました。
BEPPU PROJECTの田島さん曰く「私たちの考えるサスティナブル・ガストロノミーの中には、例えば食器やお箸のように、食とつながるものも含まれています」とのこと。サスティナブル・ガストロノミーは食に留まらず幅広い社会・経済の中で存在していることがわかります。
2日目はユネスコ食文化創造都市に認定された臼杵市へ
2日目に訪れたのは、2021年11月にユネスコ「食文化創造都市」に認定された臼杵市。
「ユネスコ創造都市ネットワーク」は、文化産業の強化による都市の活性化や文化多様性への理解増進を図ることを目的として、2004(平成16)年に創設されました。対象となる分野は、文学、映画、音楽、クラフト&フォークアート、デザイン、メディア・アート、食文化の7産業。都市間での国際的なネットワークを活用し、相互に経験や知識の共有も図っています。
地形と地質に恵まれた臼杵市では1,600年頃から醸造業が盛んになり、それらを根本とした独自の伝統郷土食を受け継いできました。近年では事業者と提携し、水源涵養や有機農業、海洋環境保全の推進を目指しています。
市街地は、三方を海に囲まれていた臼杵城の城下町にあたります。臼杵城は戦国時代に大友 宗麟(おおとも そうりん)が緊急用の要塞として築城したもの。
市街地にある江戸の風情を残した重厚な佇まいは安政2年(1855年)創業の小手川酒造さん。築150年の外観は、なまこ壁といわれる土蔵に用いられる工法でつくられており、1997年には国の有形文化財に登録されました。
明治に入って豊かな自然と水に恵まれた臼杵は醤油味噌製造が盛んになりました。今回訪れた富士屋さんも明治16年創業の老舗です。
臼杵の昔ながらの城下町を再現した八町大路には、創業者の名前を冠したアンテナショップ「富士屋甚兵衛」があります。ここでは「富士屋甚兵衛」のロゴマークを使用したオリジナル商品のほか、国産原料を使用した定番の合わせみそ・豊後赤みそを量り売りしたものも購入できますよ。
日本酒と醤油に共通しているのは「発酵」という日本の伝統的食文化です。一見すると「発酵」と今回のテーマである「サスティナブル」の関連は掴みにくいかもしれません。しかし人類は発酵を通して摂取できる食物の幅を広げ、栄養を摂取し、危機に備えて長期保存を可能としてきました。こうした使えるものの幅を広げるという点や、長期的な保存・利用が可能という点はまさにサスティナブルな食文化を構築していく上で重要な観点です。
最近では静岡大学が発酵とサステナブルな地域社会研究所という研究所を開設し、研究や地域連携を積極的に行っています。臼杵が培ってきた豊かな自然と発酵食品の文化が、21世紀に入りサスティナブルガストロノミーという新たな文脈で注目されていることが今回の旅でわかりました。
大分サスティナブルガストロノミーを現地で楽しもう!
今回参加した大分サスティナブル・ガストロノミー体験ツアーは、食をめぐる文化・体験を構成するコンテンツ一つ一つの質が高く、こだわりで溢れていました。同時に、ただ表面上の質が高いだけでなく、その背後には生産や流通まで一貫したサスティナブルの精神がありました。
UNWTOと日本観光振興協会・株式会社ぐるなびが行った調査によれば、全国の自治体の42%が、何らかの形でガストロノミー・ツーリズムに取り組んでいることが明らかになっています。しかし一方でその取組内容は断片的で手探りの段階に留まったものが多く、国も含めて総合的体系的な取り組みの域には達していないと結論付けられています。
可能性がある一方で、体系的な取り組みが難しいガストロノミー・ツーリズム。今回紹介した大分県の取り組みは、以上のような課題を抱える日本のガストロノミー・ツーリズム業界において総合的かつ体系的な実践のあり方の一つを提示していると言えるでしょう。
関連する分野の方はぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか?そして持続可能な観光を実践したいと考えている方はぜひ自ら足を運び訪れてみてください。
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