長野県で農業を生業とするうえで大切なこと

農業 長野県

「農業」この言葉を見て、皆さんは何を想像するだろうか?おじいちゃんおばあちゃんが腰をかがめて畑で作業している光景、北米の広大な農地をただひたすらにトラクターが前進する風景、IoTが発達し多くの作業が機械化され都会でもレタスが収穫できる未来、人によって想像する画は違うかもしれないが、ただ一つ、共通して想像できることがあるだろう。

それは、高齢化が進み後継者が減っていく未来だ。

農業 池田町

昨今、日本中いたる場所で「農業は厳しい」という声が聞こえてくる。長野県池田町で農家として生計を立てる田中学さんも、そんな声を聞いて育ち働いてきた人のひとりだ。田中さんは池田町生まれ池田町育ち、専門学校で花の勉強をしたのち大北農業協同組合(JA大北)に就職した。

働き始めて10年経ったある日、友達に「池田町の農業って右肩下がりだよね」と言われたことがキッカケとなり専業農家に転職。

「じゃあ、おれがやってやるよ! 何とかしてやろう!という一心でしたね。奥さんも農業でいいよと言ってくれました。両親も一緒に農業をやっていますし子どもたちも時間があるときは手伝ってくれます。家族全員で農業に取り組んできた16年ですね。未だに実力不足な部分もありますが、毎日、精一杯やっています。」

話を聞いた人

田中 学さん

池田町出身池田町在住。久根原農園代表。 専門学校で花に関する勉強をした後、大北農業協同組合(JA大北)に就職。16年前に離職し専業農家として独立。池田町の青年農業者ネットワークで中心的な役割を担うほか、農業や教育に関する様々な委員も務めている。

「現在の状況としては、高齢化で田んぼが維持管理できない人が増えてきたので、そういった方々から田んぼを譲り受け借りているうちに面積が5倍に増えました。新たに何か始めたわけではなく、地域にあるものを代々受け継いでいるのが現状です。」

田中さんは家族で農業を行ういわゆる家族経営の農家だが、長野県の一般的な農家とは異なる点が一つある。それは、お米や野菜などの食べ物だけでなく「花」の栽培も行っている点だ。そして、田中さんは人一倍、この花の栽培に心血を注いでいる。

「花の学校を出ていること、そして祖父の代から花を栽培し続けていることもあり花にはこだわりがあります。カーネーション・シクラメン他、多数栽培しています。いいモノができたときの満足感と買ってくれた方々の笑顔、そして自分も含め花を手にした人が感じる癒し。花にはお米や野菜とは異なる魅力があります。」

「そんな花に力を入れたい気持ちとは裏腹に、生活していくために米や野菜にシフトしている現実があります。僕個人の思いとしては、もう少し花に力を入れたいです。花は農業の機械化が進んだ現代においても未だに「手作業」なので、とても手間暇がかかります。家族経営なので、どこかに力を入れると他のものには手が回らなくなってしまう。バランスが難しいですね。本心は、両方を兼ね備えた食べられる花とか作ってみたいですけど笑」

年間、池田町で積極的に農業や教育の活動に取り組まれてきた田中さんにとって、池田町で農業に取り組むということの良さや難しさはどこにあるのだろうか。

「池田町は米産業が盛んな場所で、僕が学校で学んできたのは花き産業だった。まず、そこがミスマッチでした。農協時代、米産業が盛んな池田町で、野菜や花を作りましょうっていう指導をしてきたけど、どうも上手にいかなかった。それで、実際に自分が農業を始めてみて、やっぱり花作りは難しかった。それは、自分がやってみて初めて分かったことでした。お米を作るために区画が整備されてきているので、野菜や花をすぐにできるわけじゃないなと。だから正直、当初はやりにくかった。でも 年経って、やっと僕が営んでいるところは土も園芸に向いたものになってきたなと思います。」

これからの時代、政府の農業政策はお米以上に園芸や果実、その他のものにシフトしていいきましょうという流れがあると田中さんは語る。農業は、今まで以上に「自己責任」の部分が強くなる。時代にあった農業をおこなうために、田中さんは考えていることとは。

「これからは、農家が地域でまとまり組織として農業を行っていくことが求められています。農業人口が高齢化する中で、みんなで協力する体制を作りつつ、その中で自分の存在感を出せる環境づくりが必要です。いかに農村地域を壊さず持続させていけるか。そのためには意識改革が必要ですが、急激に意識を変化させることは現実的に難しいので、少しづつ組織作りや環境整備などのできるところからコツコツ変革させることが大切です。」

近年、都市部から地方に移住して農業を始める人が増えている。かすかな希望が見える一方で高齢化の流れに歯止めはかからない現状は、田中さんの目にどう映っているのか。

「僕個人の意見としては、新規就農者は大歓迎です!先ほど話したように今後、組織化されていけばノウハウも伝えていきやすくなります。農業は道具や販路、土地の問題など1人では解決できない課題が多いので新規就農者が学びやすい環境にはなっていくでしょう。」

「もう一つのポイントは、農業と一括りにしても「やりたい農業のカタチ」が人によって違います。大規模に展開して稼ぎたい人もいれば、自然に優しい有機農業を小規模に実践したい人もいる。一人一人の考え方を尊重した農業ができる環境づくりが必要だと思います。」

「若い人でも十分農業で稼いでいくことはできます。ただ、これからの時代は花だけ・野菜だけ・米だけではなくて、「いくつかを組み合わせる」ことが大切です。「米と花」「養豚と野菜」などなど。」

「もう一つ忘れてはいけないのが、自分のやりたいことはやりつつも、地域の景観・高齢者のサポートも含めて広大な農地を守っていく責任が僕たち若い世代にはあることです。自分だけのことを考えた農業では確実に共倒れします。個人で限られた面積で稼ぐより、大きい農地をみんなで管理してみんなで稼ごうという考え方に転換するときが今なのではないでしょうか。」

農業 長野県

 池田町の美しい田畑の風景は、誰かが手を加え管理整備しているからこそ存在する景色である。そして、これからも地域の財産として守っていかなければならない景色でもある。田中さんの言葉の端々から、農業そして地域への熱い思いが伝わってきた。

※本記事は信州池田活性化プロジェクト「Maple Tree」が発行するフリーペーパー『いけだいろ』の第7号に掲載されたものを改編し掲載しています。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員/講師。長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員。武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。