社会学におけるシカゴ学派の特徴とは?-アメリカから都市社会学の基礎を築いた学派-

シカゴ学派は、アメリカのシカゴ大学(1892年創設)に所属する研究者を中心に作られた社会学研究のグループです。また、グループだけではなく研究の特徴や傾向を指してシカゴ学派と呼ばれることもあります。

シカゴ学派がアメリカ社会学界隈でピークを迎えたのは1920年代~1930年代。ちなみに、そもそもアメリカの大学で社会学が取り扱われるようになったのは1880年代頃と言われています。

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シカゴ学派の特徴はフィールド調査&質的調査第一主義

シカゴ学派の特徴は、何といっても「フィールド調査第一」の姿勢とスタイルにあります。当時のシカゴは、南北戦争終結後アメリカで急激に発展した都市の一つでした。1840年に人口4500人だったシカゴですが、1920年には270万人の大都市へと成長。都市化により産業が発展し人口が増加した一方で、「都市」特有の社会問題が次々と発生していた時代でもありました。暴力、ストライキ、犯罪、移民増加による問題などなど。

1920年代のシカゴは「実験室としての都市」byパーク,R,E

この当時のシカゴを表した言葉として、1920年代のシカゴ学派を率いたパーク,R,Eの「実験室としての都市」という言葉があります。これは1915年にパークが発表した「都市」という論文での「都市は、人間性と社会過程を、もっとも有効かつ有利に研究しうる実験室である」という言葉からきています。

この言葉はパークのモットーであると同時に、シカゴ学派のモットーであり、多くの質的調査(参与観察/インタビュー調査/エスノグラフィー/ライフヒストリー調査などなど)によって実践的な調査研究がなされました。

シカゴ学派の読んでおきべき有名な本『ホーボー』『ゲットー』など

1920年代~1920年代のシカゴ大学を代表する指導者として、パーク(Park,R.E.)とバージェス(Burgess,E.W.)を挙げることができます。パークに関しては、後ほど触れます。パークとバージェスの指導のものとで、シカゴ大学の学生たちは優れたモノグラフ作品を次々と発表していきました。

・渡り労働者の社会的世界を扱ったアンダーソン『ホーボー』
・家庭病理を扱ったモウラ―『家族解体』
・1,313の少年ギャング集団を調査したスラッシャー『ギャング』
・ユダヤ人居住地区を研究したワース『ゲットー』
・上流階級と貧困層が背中合わせに住むシカゴのニア・ノース・サイド地区を記録したゾーボー『ゴールド・コーストとスラム』

などが今日まで読まれ続ける優れたモノグラフ作品として挙げられます。

マージナル・マンの概念を提供したシカゴ学派教授パーク,R.E.

パークは、ミシガン大学で哲学を専攻し高校教師になりますが「世界の喜びと悲しみを知りたい!」と新聞記者に転職。34歳でハーヴァード大学哲学科に入り直し、ドイツにも留学しました。(実はこの間に、ジンメルの講義を受けていたらしい)

しかし博士論文提出後、学問の世界に飽きたパークはベルギー領コンゴでの残虐行為についての報告などを書く仕事に就きました。その後も大学ではなく、職業教育校の広報担当職などを経験し、50歳のときにシカゴ大学で教え始めたのです!

シカゴ学派の特徴である「フィールド調査第一主義」、現実の世界に飛び込みとにかく鮮明に記録しまくるというスタイルが確立される過程で、パークの考え方が強く影響していることは上記の経歴を見ていただければ明らかでしょう。新聞記者、広報担当者、報告業、どれも現場第一でその場で起こっている出来事を他者に発信する仕事なのです。学問の世界にずっといたわけではないパークがいたからこそ、確立できたスタイルだと思います。

シカゴ学派を用いて地域を考察する-移動者・移民と差別・偏見-

1990年代以降、日本で外国人の方々を見かける機会は圧倒的に多くなりました。外国人技能実習制度の浸透や訪日外国人観光客の増加がその一因です。また、同時に日本国内での移動=移住者の増加もまちづくりや地域社会学界隈でよく議論されるようになってきました。

このような「移動者」が増加し、身体的な特徴や肌の色が異なる人、文化や言語が異なる人と接する機会が必然的に増えている現代社会においては、偏見や差別も同時に増えていると言えるでしょう。パークはこのような現象に対して「我々が人種問題とよんでいるものは、同化の過程での出来事であり、その失敗の証なのである」と言っています。

地方のとある集落に移住者が来たとき、移住者も地元民もお互いのことが全く分からないからこそ心配になったり不安になります。そして、心配や不安を隠し解消するために差別や偏見という感情を盾として持つのです。しかしそのときに、お互いのことをもっと知れるような個人的に密な接触があれば、偏見や差別は起きにくくなるのではないでしょうか。お互いが「同じ理想/願望(地域がもっと良くなってほしいとか)」を持つことが成功した同化であるというのです。

人間の移住とマージナル・マン

パークが提唱した二つ目の「マージナル・マン」概念についてもみていきましょう。1928年の論文「人間の移住とマージナル・マン」の中で、彼は「完全には相互浸透し、一つに溶け合うことのない二つの文化、二つの社会の境界で生きる人間」=マージナル・マンについて触れています。

簡単に言うと、先ほどの例と同じように移住者はマージナル・マンであると言えるでしょう。過去のつながりや記憶に囚われた自己と、新しい場所でリスタートした自己の間で自己は二分化され、強烈な葛藤を感じます。そして、この葛藤は地方に限らず多くの人が移住してくる都市で多くみられます。

一見すると、マージナル・マンであることにプラスな要素があまり見出せませんが、地域側からすると彼らにしか見えない世界を地域のために活かしてもらうことはとてもプラスに働きます。他の地域と比べたとき、この地域の強みや弱みは何なのか、これは生まれたときから一か所に留まっている人には分からないことだったりします。

このように、マージナル・マンの概念は流動性が高まっている後期近代だからこそ、改めて注目され使われる概念なのです。

シカゴ学派まとめ-いま改めて知りたい学派-

シカゴ学派は、その後の社会学者に大きな影響を及ぼしましたが、理論や計量分析を志向する社会学がコロンビア大学やハーヴァード大学で台頭するにつれて影響力を低下させていきました。

しかし、流動性と不確実性が高まり、以前のように何にでも当てはまる理論を構築することが難しくなった今、改めてシカゴ学派に注目が集まっていると言っても過言ではないでしょう。

地方に住み地方をフィールドとする私のような人間にとっては、「今記録しなければ明日には消えてしまうかもしれない人の記憶や地域の姿」を調査していく際に、シカゴ学派の姿勢から学ぶことがたくさんあるなと日々、感じるのです。

シカゴ学派参考文献

・現代社会学辞典
https://www.amazon.co.jp/%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6%E4%BA%8B%E5%85%B8-%E5%A4%A7%E6%BE%A4-%E7%9C%9F%E5%B9%B8/dp/4335551487
・社会学の歴史Ⅰ
https://www.amazon.co.jp/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2I-%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E8%AC%8E%E3%81%AE%E7%B3%BB%E8%AD%9C-%E6%9C%89%E6%96%90%E9%96%A3%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%9E-%E5%A5%A5%E6%9D%91-%E9%9A%86/dp/4641220395
・キーワード地域社会学
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%89%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6-%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6%E4%BC%9A/dp/4863390289

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この記事を書いた人

KAYAKURA 編集部

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