新型コロナウイルスの拡大によって、いま「ウイルス」や「感染症」を取り扱った本が注目を集めています。物語でいうと代表的な作品はカミュの『ペスト』や小松左京の『復活の日』ですが、専門書や歴史書ではどういう本を読めばいいのか分からない人も多いはず。そこで今回はウイルスや感染症を歴史や社会との関りから分析した作品を9つ紹介します。ぜひ購入して読んでウイルスや感染症への学びを深めてください!
感染症の世界史|石弘之
新型コロナウイルスの影響を受けてAmazonの医学史カテゴリーでベストセラー1位になった本書は、インフルエンザやSARS、エボラ出血熱、エイズ、ペスト、黒死病などこれまでに人類が経験した感染症の病原である微生物(ウイルス、細菌、寄生虫など)を、環境史的な角度から40億年前から今日まで網羅した1冊です。人間にとって唯一の敵と言われるウイルス(決してそんなこともないと思うが)と人類がこれまでどのように共生してきたのか、どうやって乗り越えてきたのかを知ることで、新型コロナウイルスと私たちの今後の関係性も見通すことができる内容になっています。
ビジュアル パンデミック・マップ 伝染病の起源・拡大・根絶の歴史|サンドラ・ヘンペル
ナショナルジオグラフィックが新型コロナウイルスの影響を受けて発行したビジュアルメインの1冊。19世紀ロンドンでコレラが流行したとき、その発生場所を地図上に表すことでその原因を突き止めたジョン・スノーの方法にちなみ、これまでの感染症の歴史とその感染の様子を地図上に見やすくまとめています。見えない感染症を地図に落とすことで「見える化」し、歴史の延長線上に新型コロナウイルスを配置することの重要性がわかります。結構重量のある大きめの本なので持ち歩いて読みたい方は電子書籍版がおすすめです。
感染症と法の世界史|西迫大祐
産業革命によって人々は1か所に集まるようになり大都市が形成されていきました。当初は人々が集まる場所に公衆衛生という概念はなく感染症への不安が日々増大していきました。そんななか、ペストやコレラの大流行をキッカケに、都市の健康をまもる公衆衛生「法」が誕生しました。本書は18世紀~19世紀のパリを中心に都市と法と感染症の関係性を解説した作品。新型コロナウイルスも大都市から拡大し始めたことを考えると、都市と感染の関係は2世紀以上前からの課題であったことがわかります。著者は明治大学法学部助教で法哲学、法社会学、フランス現代思想が専門の西迫大祐さんです。
衛生と近代|永島剛
アジアでペストが流行した混乱と葛藤のなかから近代が現れると論じた1冊。欧州各国の拠点となった中国の開港都市、外国人居留地が撤廃された日本神戸、日本の植民地になってまもない台湾と朝鮮、オランダ統治下のジャワ島。国境を越えて広がる脅威が引き起こした近代の実像に迫る内容は、これまで教科書で習ってきた近代史に新しい見方を授けてくれると同時に、1つの病原が歴史を変えることを歴史的に証明しています。新型コロナウイルスも数十年後、数百年後に歴史上にどう配置されることになるのか、それはまだ誰も知る由もありません。著者は
ペスト|カミュ
言わずと知れた名著、新型コロナウイルスによってAmazon評論・文学研究カテゴリーでベストセラー1位となっています。アルジェリアのオラン市で、ある朝、医師のリウーが鼠の死体を発見し、ついで原因不明の熱病者が続出、ペストが発生し氏がロックダウンしてからの物語です。外部と断絶された極限状態の中で6人の登場人物それぞれの視点から多様な対応と多様な価値観を描き出します。当時の読者は過ぎ去ってすぐの対ナチス闘争での体験が書き込まれた内容にとても共感し広く読まれました。ウイルスによって「人間」がどうなるのかを淡々と記した名作です。
黒死病―疫病の社会史|ノーマン・F. カンター
中世ヨーロッパの人口の約4割!を死に至らせた人類史上最悪の疫病“黒死病”を社会史的に読み解いた1冊。筆者は黒死病は社会構造に大変革をもたらし、豊穣なルネサンス文化と科学の時代への突破口となったと分析します。筆者のノーマン・F・カーターの専門は歴史、社会学および比較文学。米国の最も著名な中世史研究家の一人といわれています。新型コロナウイルスもそうですが、ウイルスによって社会にどのような影響が与えられたのか、社会を構成する個人1人1人の価値観をどのように変えたのかという視点でみることで、ウイルスと人間の関係性が浮き彫りになるのかなと思います。
病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ|木村知
新型コロナウイルスが中国で広まり始めた2019年12月に出版された本書は「インフルエンザは毎シーズンなぜ大流行するのか?」をテーマに、「風邪でも絶対に休めない」という社会の空気が原因だと考える筆者(総合診療従事者)が迫っていきます。現代の日本では、社会保障費の削減政策が進み、負担は増え健康自己責任論が叫ばれ始めています。それは「風邪をひいたお前が悪い。だからタスクはこなせ」というような風潮です。筆者はこのような状態を生み出してしまっている医療、社会保障制度のあり方を考察していきます。新型コロナウイルスがピークを過ぎた後、インフルエンザやマイコプラズマなど季節性のウイルスにと日本人は今後どのように共生するのか考え物だなと思わせる1冊です。
疫病と世界史|ウィリアム・H. マクニエール
スペインのアステカ帝国を一瞬で壊滅的な状況に追い込んだ天然痘、中世ヨーロッパの人口の約4割を死に追いやった黒死病など、突発的な疫病の流行は歴史や社会を急変させ文明の存続に大きな影響を与えてきました。本書は紀元前500年から紀元1200年まで、人類の歴史を大きく動かした感染症の流行を上下巻で解説していきます。表紙のインパクトが強烈な文庫本サイズの本書は、マクニール,ウィリアム・Hというカナダの歴史学者によって書かれました。
復活の日|小松左京
日本を代表するSF作家小松左京の名作『復活の日』を新型コロナウイルスで思い出した人は一定数いるはずです。吹雪のアルプスで遭難機が発見されたとき、傍にあった壊れたトランクに入っていたのは感染症を引き起こす恐ろしいMM菌。春になって雪が解け始めるとヨーロッパ各地で死亡事案が報告され始め、やがてそれは全世界に被害が広がり人類が滅亡の危機に陥るという内容の本書は、1980年に映画にもなりました。医療崩壊やマスクの患者の多くが最初は肺炎と診断される内容は、まさに新型コロナウイルスと同じです。
最後に-歴史に学ぶことは新しい出来事を知るうえで大切-
ここで紹介した9作品の特徴は、全て医学オンリーではなく社会的にウイルスを捉えたり、歴史的にウイルスを捉えたりしていることです。身体に対する影響もこわいですが、新型コロナウイルスも経済や1人1人の心の平穏に大きな影響を与えていますよね。KAYAKURAでは、新型コロナウイルスが社会に与える影響について数多く記事を掲載していますので、ぜひこちらもご覧ください。