「社会学で一番有名な人はだれか?」という質問がきたら何と答えるか。資本論や共産党宣言で有名なカール・マルクスか。”社会学”という言葉を作ったオーギュスト・コントか。自殺論で知られるエミール・デュルケームか。日本人であげるとすれば、オウム事件の際に「終わりなき日常を生きろ」という言葉と冷淡な物言いと過激さで話題になった宮台真司か。
社会学を専門に大学院で研究する身分として、私はマックス・ウェーバーをあげたい。本記事はドイツ出身で世界で最も有名な社会学者マックス・ウェーバーの理論ではなく人間性に迫った成蹊大学名誉教授でマックス・ウェーバー研究が専門の故安藤英治氏の著書「マックス・ウェーバー」についての記事である。
マックス・ウェーバーの来歴と本書の特徴
マックス・ウェーバーは、1864年にドイツのエルフルトに生まれ1920年に亡くなるまで幅広い分野に関する知見を駆使した越境的な社会学へのアプローチとドイツの在り方に誠実に向き合った社会学者である。
有名な著作は、宗教と資本主義の結びつきについて論じた「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」通称”プロ倫”や、近代社会における支配の在り方について論じた「支配の社会学」などである。
マックス・ウェーバーは、社会学を学び始めたばかりの人やあまりなじみが無い人にとっては「理論派」なイメージがあるかもしれない。事実、マックス・ウェーバーの著作や方法論は現在でも数多くの社会学テキストに掲載されているが、マックス・ウェーバーの人生や人間性について触れているものは数少ない。
本書はそういった意味でとても稀有な本である。ここからは本書の中から気になった箇所を抜粋して紹介していきたい。
マックス・ウェーバーは理論家ではなく実践家
ウェーバーはとある手紙の中でこんなことを言っている。
「自分は本質的には実践的な人間であり、研究者には向かない、実践活動として教職が自分には一番向いている」と。
ウェーバーは、人の思想はその人の文章や喋りだけではなく生き方そのもの、行為そのものが人間の思想であると主張した。ウェーバーが障害で最も大切にしたことは誠実さであり言行一致である。これはウェーバーなりの”認識と実践との乖離に対する警告”であった。
実はマックス・ウェーバーは理論家ではなく実践家なのである。
マックス・ウェーバーの愛国的ナショナリストとしての一面
ウェーバーには愛国的ナショナリストとしての一面がある。彼は生涯ドイツを愛しドイツのために研究をした。
ウェーバーは愛国心について、次のように語っている。
「本当の愛国とは、国の現状に賛美を送り続けることではなく、国が間違っているときには勇気をもって非難し正しい方向に国を向かわせることだ。」
プロ倫も支配の社会学も、一見するとそうは読めないが実はすべてドイツを憂いてドイツのためを思って書かれている本なのである。
客観性と情熱の大切さを説いたマックス・ウェーバー
ウェーバーは客観性を大事にした社会学者でもある。
客観性を持ち続けることは難しい。意識して努力しなければ客観性は身につかない。ウェーバーは客観性を持ち続けることは禁欲的であることだと言い、そのためには”情熱”が大切だと説いた。
一つ目の情熱は動機を持ち続ける情熱。もう一つは情熱の暴発を防ぐ情熱である、と。
禁欲とはこの両者の緊張のバランスに他ならない。
マックス・ウェーバーの知られざる一面が知れる良書
ここまで見てきただけでも「理論より実践」「愛国的ナショナリスト」「情熱」など、マックス・ウェーバーの従来のイメージでは浮かびづらい単語が出てきた。
これ以外にもマックス・ウェーバーの恋愛の話や家族の話も出てくる本書。それらもすべてのちのマックス・ウェーバーの研究に影響を与えるのだからおもしろい。興味がある方は、ぜひ本書を読んでみてはいかがだろうか。
社会学者の人間性に触れるのは、理論を覚え駆使することとはまた違ったおもしろさがあることを教えてくれる本である。