この記事では社会学概念「文化資本」についてわかりやすく具体例を交えて解説していきます!
→おすすめの社会学入門書16選-社会学研究科の大学院生が選書-はこちらから。
「文化資本」を提唱したフランスの社会学者ピエール・ブルデューについての基本的な情報や入門書・おすすめ本を知りたい方はこちらの記事もあわせてご覧ください。
「文化資本」は、教育格差や移動の可能性ともつながってくる社会学用語
まちづくりや地域活性化、移住について考察するメディアKAYAKURAですが、今回は社会学用語「文化資本」に注目します。
「学問用語知って、意味あるの?」と思う方もいるかもしれませんが、様々な学問分野に蓄積されている用語には、課題の解決の糸口になるものも少なくありません。
大切なのは言葉ではなく、言葉が指し示すものです。教育格差や移動の可能性を考える際に文化資本は重要な視点を私たちに提供してくれます。記事の中身は最初から丁寧に読んでいくと「あぁ、なるほど」と分かる内容になっています。警戒することなく、ぜひ読んでみてください!
文化資本という言葉を作ったP,ブルデュー
文化資本の概念を提唱したのは、現代フランスを代表する社会学者P.ブルデューです。1930年に南西フランスのピレネー地方で生まれた彼は、戦後、パリのリセにある高等師範学校に入学しました。教職に就いたものの兵役に召集されアルジェリアで任務に従事、アルジェ大学で教鞭をとりながらフィールドワークを行いました。帰国後はコレージュ・ド・フランス(フランスのパリにある最もフランスでレベルの高い学校)の教授にまで上りつめました。
文化資本とは長期間の訓練と蓄積が文化的価値として表れたもの
ブルデューが提唱した数ある概念の中で最も有名なのが「文化資本」です。それは、長期間の訓練と蓄積によって得られた資格や能力、性向などが文化的な価値として表出化したものを指します。学歴、医師や教員の職業資格などが文化資本に該当します。
文化資本とは今まで蓄積してきたものが、社会で認知されたパスポートのようなものとして通用しているものであると言えるのです。
資本という言葉を使う理由は、今まで蓄積してきた資格や能力、教養が就活や今後の人生の中で長期間にわたり社会に通用する、自分の将来の元手になっていることに由来します。
文化資本は3つに分けられる
文化資本は大きく3つに分けることができます。
- 個人に蓄積される言語、知識、教養、技能、趣味、感性などの「身体化された文化資本」
- 書物、絵画、楽器、道具、機械など物質として所有できる「客体化された文化資本」
- 身体化された文化資本が公的な承認を得た学歴や資格などの「制度化された文化資本」
少し横道にそれますが、未開社会では以下の3つが「象徴資本」と呼ばれます。
- 社会資本=人間関係や社会的地位
- 経済資本=金銭や財産
- 文化資本=知識や学力、教養、能力など
文化資本の重要なポイントは、「多くの人々は、それらの資本を自力で身につけたと思っているが、そんなことはない。自分で気づいていなくても、自身の出身階層と共有している文化的な特徴の体系によって分かれている。」ということです。
文化資本の差は教育達成の差と関連する
ブルデューはもともと、「出身階級によって学校での成功になぜ差がつくのか」を証明するために文化資本という概念を仮設的に提示しました。
上層階級の子供は学校に入る前に、学校の文化に適合する言葉遣いやマナー、教養を家庭内で身につけることができます。(なぜなら、上層階級の親は自身も学校という仕組みの下で成功した可能性が高く、どうすれば成功するのか分かっているからです。読書、読み書き、楽器演奏、運動などを幼少期から子供にさせている可能性も高いでしょう。)しかし、中流階級や庶民の子どもはこれらの機会が乏しい傾向にあります。
出身階級の文化資本の差が教育達成の違いにつながっていること、親の例のように文化資本が階級再生産の要因でもあること(学校という中立的とみられている制度の下で承認を得ることで正当化される)をブルデューは突き止め、大きな反響を呼んだのです。
文化資本は気が付かないうちに人生に影響を与えている
■階級再生産の悪しき側面
子どもたちの中で、「自分は上流階級だから文化資本をたくさん手に入れられた。だから、自分は他の人より成績がいいんだ!」と自覚している子どもは非常に少ないでしょう。
自身の成功は大人になっても「自分は人よりも努力した!他の人は努力が足りないから学力も低いし給料も低いんだ!」という思考に陥りやすくなるでしょう。もちろん、そういう側面もありすが、上流階級の子どもはスタート地点が他の人よりも前で、スタートしてからも水分補給やコーチからのアドバイスの機会が多いので差がつくのも当然です。
上流階級の人ばかりが政治の世界に進んだり、企業で高い地位に就いたりしたらどのようなことが起こるでしょうか…?「お金がないと嘆く人は努力が足りない」「全部、自己責任だよ」という発想になりやすいかもしれませn。
家庭環境以外で文化資本を得られる機会を設けることが大切
■階級再生産を食い止めるには?
階級の再生産も食い止める方法はあるのでしょうか?
一つは、家庭以外で文化資本を得られる機会を設けることです。例えば、たくさん本を読みたいけどお金が無くて読めない人が使える充実した「図書館」を設ける、費用が高すぎて塾に通えない子どもが安価で学べる「公営塾」を作るなどがあります。これらは公共団体にできる取り組みです。これらをすれば例え親の階層が低くても上層階級にジャンプアップする機会を得られる可能性が高まります。
今日は「文化資本」を取り扱ってきました。P,ブルデューには、これ以外にも「ハビトゥス」や「差異化(ディスタンクシオン)」など知っていて損はない概念がいくつもあるので、今後取り扱います。