安楽死・尊厳死・自殺幇助などの違いや定義は?-京都府 医師2人 ALS嘱託殺人で注目の言葉をわかりやすく解説-

ALSに苦しむ女性に薬物を投与し殺害したとして医師2人が嘱託殺人の容疑で逮捕された事件をきっかけに「安楽死」「嘱託殺人」などの言葉がニュースでよく聞かれます。

緩和医療医師の大津秀一氏が2019年に書いた記事のタイトルにもあるように、日本は何でも「安楽死」と呼びすぎる状況にあります。しかしもし真剣に「死」を考えるのであれば、言葉の使い方とその定義を1つ1つ丁寧に抑えることは大切です。

「死にたい人にとっては言葉なんか関係ない」という声もありますが、これは個人の問題ではなく社会的な問題です。議論が必要であるとの声が高まるいま、改めて死をめぐる言葉の意味や使われ方を知ることが必要ではないでしょうか。

そこで今回は「安楽死」「尊厳死」「自殺幇助」「嘱託殺人」という4つの言葉の意味を論文や専門家の記事を参考に整理していきます。筆者はこの分野の専門家ではありませんが、専門家ではないからこそできる限り分かりやすくかみ砕いてその意味や示すものを皆さんと共有できたらと思います。ぜひ議論・考えることの参考にしてみてください。

また各キーワードのおすすめ本/関連本も適宜紹介しますので、興味関心のある方はぜひ買って読んでみてください。

「安楽死」の定義と用いられ方

「安楽死」と言ってもその言葉の定義や用いられ方は曖昧です。よってここでは多面的にみるために2つの安楽死の定義を紹介します。日本臨床倫理学会によると、安楽死とは「行為の主体として他人が関与し、自分自身ではもはや実行することのできなくなった患者に、身体的侵害によって直接死をもたらすこと」を指します。

九州看護福祉大学准教授 川本起久子氏によると安楽死とは「人が死を迎えるにあたって、苦痛を緩和し取り除くために、苦痛を訴える末期患者の求めに応じて、医師その他の他人が注射などの積極的な方法を用いて、患者を死に至らしめること」を指します。

日本では安楽死は認められていません。理由は刑法199条が殺人を処罰対象とすることに加えて、202条では「被殺者の同意による殺害」「それ自体処罰されない自殺を行うように他人を仕向けること」「手助けすること」も処罰対象となっているため、このような法による規制の下では本人の意思にかかわらず犯罪を構成する可能性があるからです。

また創価大学准教授 佐瀬恵子によれば「安楽死」の中にも「純粋安楽死」「間接的安楽死」「消極的安楽死」「積極的安楽死」などさまざまな種類があります。ここではニュースや記事でも目にすることが多い「積極的安楽死」と「消極的安楽死」の2つを佐瀬の定義に沿って説明します。

積極的安楽死

積極的安楽死とは肉体的な苦痛を除去する目的で、積極的な行為による直接的な生命短縮が行われる場合を指します。これは本人があまりにも苦しみ、近親者が見るに見かね死なせることによって、一刻も早く楽にしてあげたいという願いからその生命を断つことです。現在の法律の下では、自ら手を下した近親者や医師は、刑法の殺人罪によって処せられることとなります。

消極的安楽死

消極的安楽死とは、死苦や病苦を長引かせないために、積極的な延命治療を行わない不作為によって、死期を早まらせる場合を指します。これは延命治療を続けても回復の見込みがなく苦痛を引き延ばすしか効果が無い場合に、患者が治療の継続を拒否しそれ以上の延命治療を行わないことです。尊厳死型安楽死ともよばれるこのケースは、以下で説明する尊厳死と非常に近い、もしくは重なる考え方です。

「尊厳死」の定義と用いられ方

九州看護福祉大学准教授 川本起久子氏によると尊厳死とは「人の自発的意思で延命治療を中止し、人工呼吸器等の医療機器を用いた医療処置によらない自然な状態で、寿命がきたら自分らしく迎えられることのできる死(自然死)」です。

簡単にまとめると「患者の意思によって延命治療しないこと」を指して尊厳死と呼ぶ場合が多いですが、学会や事件判決によってさまざまな解釈があり一概に尊厳死を定義することは難しい状態です。

例えば日本尊厳死協会の尊厳死の宣言書の示すところでは、「無意味な延命治療の拒否」「苦痛を最大限に緩和する措置の希望」「植物状態に陥った場合における生命維持装置の拒否」が尊厳死となります。

「自殺幇助」の定義と用いられ方

日本臨床倫理学会によると自殺幇助とは「自殺の意図をもつものに、有形・無形の便宜(機会/処置)を提供することによって、その意図を実現させること」です。日本では、倫理的にも法的にも許容されていません。ちなみに「幇助」とは「わきから力を添えて手助けすること」という意味を持つ言葉で、「助ける」という意味だと解釈すれば大丈夫です。

安楽死が行為の主体として他人が関与するに対して、自殺幇助は、その時点で意思能力がある患者本人が関与します。患者は、処方された薬物、毒物、あるいは他の行為によって自分の命を絶つのです。また安楽死や尊厳死の説明は登場した「苦痛」などの言葉が自殺幇助の説明では出てこない点も差異を考えるうえでポイントだと考えられます。

「嘱託殺人」の定義と用いられ方

今回の京都の事件では「嘱託殺人」という言葉がよくつかわれています。嘱託殺人とは刑法第202条に規定される罪「自殺関与・同意殺人罪」のうち同意殺人罪の1つで「被害者の積極的な依頼を受けてその人を殺すこと」をさします。

今回の京都の事件ではSNS上で知り合った医師が、神経難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う女性に積極的な依頼を受けて薬物投与で殺したので、嘱託殺人という言葉が使われていることになります。

最後に-学び考え議論し続けることが大切なテーマ-

本記事では先行研究や専門家による記事を参考に「安楽死」「尊厳死」「自殺幇助」「嘱託殺人」という4つの言葉の定義や使われ方をみてきました。本記事内で取りあげた言葉は、それ自体の使われ方や定義が国によっても時代によっても異なる実態があります。

ここで取り上げたのはあくまで筆者が抜粋した主に日本における定義であるため、ぜひ興味関心がある皆さんは国によってその使われ方や状況が異なることを、上記でおすすめした文献や先行研究・法律を参考に調べ深堀してもらえたらと思います。1人1人が学びを止めずに考え議論に加わっていくことが、この国におけるよりよい「安楽死」や「尊厳死」の形をつくることにつながります。

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この記事を書いた人

KAYAKURA 編集部

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