【書評】井出留美『あるものでまかなう生活』-これからの時代のライフスタイルを提言する1冊-

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コロナ禍のイギリスやイタリア、オーストラリアでは、2019年に比べて家庭で食品を捨てなくなったといいます。それは新型コロナウイルスの拡大で食材が手に入りにくくなり、多くの人が家にあるものを使って料理したり、食材を大切にしたりするようになったから。つまり「ないものはないと悟り、人々が”あるもの”に目を向けた」のです。

日本経済新聞出版社から2020年10月7日に出た新刊『あるものでまかなう生活』は、食品ロス問題専門家の井出留美さんによる「あるものでまかなう」コロナ時代の新たなスタンダートとなる生き方を実践するための知恵袋的な1冊。豊富な筆者の知識と経験に裏打ちされたたくさんのTipsが掲載されています。

「あるものでまかなう生活」のキーワードは「サーキュラーエコノミー」

皆さんはサーキュラーエコノミーという言葉を聞いたことがあるでしょうか。これまでの世の中は「つくる→売る→買う→捨てる」という一方通行型の経済モデルでした。それは大量生産、大量販売、大量消費、そして大量廃棄が当たり前の世界です。

しかし世界中の人口が増加し、さまざまな資源が枯渇していくこれからの時代はそれでは人々の生活は成り立ちません。そこで「つくる→売る→買う→捨てる」で終わらせず、再販売や再利用、リメイクなどでいまある資源を循環させていこうという考え方が登場しました。これはサーキュラーエコノミー(循環型経済)です。

サーキュラーエコノミーについては下の記事で詳細に解説しているのでご覧いただけたらと思いますが、これはSDGs同様に企業や行政だけが行えばよいというモノではありません。私たち個人ができることをコツコツ行っていくことで真の循環型経済は達成されるのです。

筆者は本書の第1章で「そもそもなぜサーキュラーエコノミーは成り立たないのか」を多面的に検討していきます。思想家ジャン・ボードリヤールは現代における消費を記号消費(semiotics of consumption)と表しましたが、第1章ではなぜ記号消費が起きるのか、その背後にある企業や法律のマジックや制約を筆者はわかりやすく教えてくれるのです。

例えばメーカーは「新製品を見かえるとつい買っちゃう」消費者に向けて、パッケージのデザインを少しだけ変えた”新製品みたいなもの”を登場させ、中身が同じ場合は新しいものを改定品と称し販売します。そうすると旧品は食品ロスとなります。ほとんど中身や性能は変わらないにもかかわらずです。メーカーの中には、次々新製品を出しては、売れないものを「終売」にする会社もあります。

このように私たちはさまざまな理由で「あるのにつくる・売る・買う」をしてしまいます。しかしそれではサーキュラーエコノミーを達成することはできません。では一体どうすれば身近なところからサーキュラーエコノミー実現に近づくことができるのか。第2章からはその具体的な方法を多数教えてくれます。

「あるものでまかなう」食と暮らし

第2章第3章では、具体的にあるものでまかなう食と暮らしの方法を掲載しています。ここでは本書に掲載されている方法のほんの一部を紹介したいと思います。ちなみに、私は知らないことが多すぎて驚きの連続で読みながらたくさん付箋を貼ってしまいました。

  • あぶることでおいしくなるものがたくさんある。例えば焼きのり。ちょっとのひと手間で香りがよくなり味もよくなる。
  • 缶詰の賞味期限は「3年間」がほとんどだけど、じつはそれは缶の品質保持期限が3年だから。食品の品質が3年を過ぎると悪くなるわけではなく、ツナ缶工場社員のオススメは「賞味期限切れのツナ缶」。
  • 家庭ごみを減らすコンポスト(堆肥化)に助成金を支給する自治体も最近はある。コンポストで生ごみを減らし、栄養価の高い土を畑仕事に使い、収穫した野菜を食べたりシェアしたり。
  • 家に眠っている切手はいつのまにか「古切手」に。たまった古切手はレターパックやスマートレターに交換できる。眠っている切手=お金、循環させないともったいない。

本書には他にも多数の今日からできる「あるものでまかなう生活」の方法が多数掲載されています。

最後に-「あるものでまかなう生活」が世界を変える-

井出留美著『あるものでまかなう生活』は、これからの時代のライフスタイルを提言する意欲作です。サーキュラーエコノミーやSDGsと聞くとなんだか仰々しいですが、それは江戸時代から受け継がれてきた伝統であったり、私たちも子どもの頃は当たり前のようにやっていたことだったりします。

個人のアクションの積み重ねが大きな変化につながる。本書の最後はある2人の言葉で締めくくられています。この2つの言葉が私たちに教えてくれるのは、日ごろからのあるものでまかなう暮らしの実践が、将来世代、子どもや孫の暮らしを豊かにし私たち自身の暮らしも本当の意味で豊かにしてくれるということです。

「すべての食料品の購入が投票になる」by ジェーン・グドール (動物行動学者/人類学者)

「買う行為は、未来へ何を残し何を残さないかを決める『投票』だ」by 岩城紀子(スマイルサークル)

この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.