ツーリストは観光で何を経験しているのか?観光社会学E・コーエンの5つのタイプ分けを解説

「ツーリストは観光によって何を経験しているのか?」

ディズニーランドに行った人は、ディズニーランドに行ったことで何を経験したのか?セブ島でまったりしてきた人はセブで何を経験したのか?観光において目的がないことはありえないですが、改めて問われると一体、私たちは何を経験しているのでしょうか?

本記事では観光を社会学的視点から考える学問「観光社会学」の知見からこの問いに答えを与えます。引用するのは、観光や人口移動について研究してきた社会学者E・コーエンの5つのモードタイプ分けです。モードごとに簡単な説明と実例をあげますので、観光事業者はフレームワークとしてツーリストは自己分析のツールとして使ってみてください。

気晴らしモード

気晴らしモードは、日常の退屈さから逃れようとする際の観光経験を意味しています。旅行は「気晴らし」「憂さ晴らし」に過ぎないと考えるタイプです。

このタイプの観光経験は、自分の属する社会や文化から疎外された状態に置かれた人が、無意味な日常から非日常辺ただ逃避することを目的とします。

観光社会学においてはこれらの観光経験者は批判の対象とされることが多いですが、もし現代を生きる人々が日常的に阻害されているのならば、観光において広くみられるのはこのスタイルになってしまいます。

「なんか仕事つまらなくてモヤモヤしてるけど、この土日晴れるみたいだからどっか行こうぜ!」こんなテンションで行われる観光経験が多く行く先はメジャーな観光地が主となります。しかし訪問先の選定にもそこまでの理由はなく、自社会の中にも訪問先にも彼らにとっての中心はありません。

レクリエーション・モード

レクリエーション・モードの観光経験は、娯楽的な色彩の強い観光経験です。気晴らしモードと比較すると、ツーリストは心身の疲労を癒し元気を取り戻すことになるので、気晴らし以上の「再生」の意味があります。

日常的な労働活動の場からの一時的な離脱を目的としているため、訪問先でできる体験は「楽しさ」「おもしろさ」重視で「リアルな世界」「オーセンティックな世界」は求めていません。大切なのは日常生活の正反対にある楽しさなのです。

レクリエーション・モードのツーリストは、観光客向けにつくられた「疑似イベント」を体験しているだけかもしれませんが、彼らもそのことには気がついています。大規模レジャー施設に本物がないことは知っていますが、楽しく再生&充電できればOKなのです。

経験モード

経験モードとは、訪問先で生きる人々の生活様式や価値観に憧れすごいと思うような感覚を持ち、これこそがオーセンティックな生き方/ライフスタイルだと考えるに至るような観光経験を指します。

日常生活において自分の居場所を見出すことができない現代人が、どこかほかの場所にいって本物らしさを求めるようなモードで、気晴らしモードやレクリエーション・モードと比べ探求心が強い観光経験のスタイルになります。

「地方の田舎に行ったら、普段暮らしている都会よりもスローで本質的な生活をしているのを見て田舎暮らしにあこがれた!」「ネパールの寺院を訪問したら、質素だけどつつましく幸せに暮らしている姿を見て感動した」一例ですが、こんな体験が経験モードに括られます。

ポイントは憧れたり感動してはいるものの自分はあくまでツーリストで当該の場所に対して異郷人であり続けること。この場合、ツーリストはあくまで部外者であり続け当事者になることはありません。

体験モード

体験モードのツーリストは、他者の生活に憧れ感動するだけでなく、実際にそこに参加して体験しようとするものを指します。経験モードから一歩踏み出て、積極的に当該の場所にコミットし自分と彼らを同一化しようと試みます。

しかしこれは心の底から憧れ感動し本質的に同一化しようとしているわけではありません。絶対的にコミットしたいものはまだ見つかっていないので、訪問先でさまざまな価値やライフスタイルに一時的に自分を同一化させてみようとするのです。

新しい車を買うときに決まってないけどとりあえずいろんな車に乗ってみるように、自分に合うものをひたすら探しています。言い換えるとこれは「自分探し」で、若く自分の中心となるようなものを探しているツーリストに多くみられます。

バックパック一つで世界中を旅しながら現地の人と触れ合ったり、地方にあるゲストハウスやコミュニティスペースを巡りながら心の底から住みたいと思える場所を探している人などが、体験モードに当てはまります。

実存モード

上記4つのモードを経た先にあるのが実存モードです。実存モードのツーリストは、単純な「体験」にとどまらずに自分たちの生活様式や価値観を捨て去り、観光で知った他者の生活様式や価値観を永遠に自分のものにしようとする人たちをさします。

精神的にも文化的にも価値観的にもコミットする場所をみつけとどまることを決心するその過程は、宗教における回心に近いかもしれません。その場所に深くコミットし、新しい場所の文化や社会に積極的に適応することで新しいライフスタイルを始めようとするのです。

以下モデルケースとして都会での暮らしに疲れたたAさんが気晴らしモードから実存モードにたどり着くまでの過程を考えてみましょう。本来、このモード分けは縦に繋がっているわけではありませんがつながることもあるという一例です。

  1. 気晴らしモード(日常からの脱出):日常生活に疲れたまたま休日ができたから、テレビの旅番組でみた長野県に行ってみよう。
  2. レクリエーション・モード (心身の疲労をいやす):この前行った長野県に軽井沢っていう避暑地兼観光地があるみたいだから、白糸の滝を見たり温泉入ったり涼しい森でボーっとして癒されよう
  3. 経験モード(生活様式や価値観を経験):最近、田舎暮らしもいいかもって思うようになってきたから地方のさまざまな市町村の移住体験ツアーや移住体験住宅を使って現地の生活や価値観に触れてみよう。
  4. 体験モード(生活に参加・体験):移住体験住宅を通して現地の人と仲良くなって居心地よい町が見つかったから、中長期過ごしてみよう。
  5. 実存モード:中長期住んでみたこの町の雰囲気や地域の人の価値観、ライフスタイルは都会では実践できない素晴らしいものだと確信した。よし、移住しよう。

「観光なのに最後移住なの?」と思う方もいるかもしれませんが、この場合の観光は「移動」と「自分の中心となる軸」がポイントになります。移動の最終形態としての定住は、移動≒観光の延長線上にあるためE・コーエンの分析視覚では違和感ない流れとなっています。

まとめ-観光を5つのモードに分けることで価値が分かりやすくなる-

E・コーエンの観光経験の5つのモード分けは観光社会学の分析理論としてこれまでは使われてきたものです。

実際に観光事業者が観光コンテンツを提供する際や、自治体が自分たちの地域が提供する観光の価値を分析する際にもE・コーエンのモード分けは使えるかもしれないと考え今日は紹介しました。

実際はこんなに単純なものではありませんが、実態を分かりやすく分析するためのフレームワークとして使ってみてください。観光社会学には他にも様々な分析理論があるので、興味を持った人は本や論文も読んでみてください。

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引用資料・参考資料

  • Cohen,E.1979, “A Phenomenology of Tourist Experiences” Sociology, 13, pp.179-201, (遠藤英樹訳、1998.「観光経験 の現象学」『研究季報』9(1)、奈良県立商科大学)
  • 道空間研究所 客員研究員 鈴木無二, 「巡礼の観光社会学 -巡礼経験のカテゴリー化に向けて-」(閲覧日2019年12月28日, https://www.waseda.jp/inst/cro/assets/uploads/2008/03/4037f4c543af28ace73e7d7435eafa31.pdf )
  • 遠藤英樹, 2018, 「第1章 「観光社会学」の対象と視点 リフレクシブな「観光社会学」へ」『観光社会学2.0 拡がりゆくツーリズム研究』 須藤廣, 遠藤英樹, 福村出版, p 42-62.
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この記事を書いた人

KAYAKURA 編集部

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